幸せになれる嘘

「芭蕉さん知ってます?」

部屋の隅っこで本を読んでいた可愛い弟子(間違っても鬼弟子の方ではない)がぽつりと呟いた。

「へ?」

私は読んでいた本を閉じ顔をあげて、なまえちゃんに「何を?」と視線を送るとなまえちゃんはうれしそうに笑った。

「実は今日って男の人が可愛い恋人に愛の言葉を言わないといけない日なんですよ。」

「う、嘘だぁ。」

もう四月は終わったでしょ、なんて言ってもなまえちゃんは真剣な表情を変えない。
それどころか疑う私を怪訝そうに見つめている。

「…本当?」

もしかしたら本当かもしれない。
そう考えたらドキドキと煩いくらい胸が鳴りだした。

「芭蕉さん知らなかったんですか?」

遅れてます。と口を尖らせるなまえちゃんを見て若い子の流行りと自分の感覚の違いを改めて感じる。

「そっか…。」

しょんぼりと肩を落とすとなまえちゃんは本を机に置いて、嬉しそうな顔で私の方ヘやって来た。

「そんな日なので、是非私のために愛の言葉を囁いてください。」

しかし、恥ずかしげもなく笑うなまえちゃんにどこか違和感も感じる。

「本当…なんだよね?」

「…芭蕉さんにとって私は可愛い恋人じゃないんですか。」

いつまでも疑う私になまえちゃんは悲しそうに俯いてしまった。
私は決心をして、なまえちゃんを見つめた。

「なまえ、ちゃんっ。」

緊張のしすぎで声が裏返っている。なまえちゃんはゆっくりと顔をあげると期待に満ちた瞳で私を見つめる。

「だ、だ、だ…っ大好きだよ。」

こんな明るいうちから何を言っているのか、恥ずかしくて顔を隠してしまいたい。
言われた張本人なまえちゃんは耳まで真っ赤に染めて目の前で悶えている。

「あ、の。これでいいかな。」

いつまでも悶えているなまえちゃんに聞くと、人差し指を立てて私を見てきた。
これって、つまり…

「もう一回、お願いしますっ!」

「嫌だよー!ていうか、今日って本当にそんな日なの!?」

「そんな事もうどうだっていいじゃないですか!さあ、もう一度!!」

顔を真っ赤にしたなまえちゃんは身を乗り出して私に迫ってくる。

「そんな事…ってじゃあ嘘なの!?」

逃げるように後退ってもなまえちゃんはしっかりと着いてくるから、いつの間に壁まで追い詰められてしまった。
それを確認したなまえちゃんはニッコリと笑い私との距離を縮め。

「騙される芭蕉さんが悪いんです。」

そう言いながら私の腕におさまり、耳にフッと息を吹き掛けてきた。
思いがけない刺激に背筋に電流に似たものが走る。

「…っ!」

なまえちゃんは私の反応を見て楽しそうにクスクスと笑うと、改めて私と向き合った。

「さ、もう一度可愛い恋人に愛の言葉をお願いします。」

この眩しいほどの笑顔見て思い知る。
私はこの子に敵わない。































「なまえちゃん…愛してるよ。」






















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梅干様リクエスト
幸せになれる嘘/芭蕉
fin
2010.05.05

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