挨拶 賑やかになった朝廷。 男の方はどの方も忙しそうに働いていらっしゃる。 私も彼等の邪魔にならぬよう、私に出来る仕事を一つずつこなしていく。 すると賑やかだった廊下が一瞬だけ静かになった。たぶん、とても身分の高い方がいらっしゃるのだろう。 私は慌てて廊下の隅に移動して、あの方が通ることを祈った。 そして出てきたのは一見馬鹿みたいな恰好をしたジャージ野郎。 そう、私が期待していた聖徳太子様だ。 みんなはカレー臭いだとか馬鹿太子とか言うけれど、私は偉そうに踏ん反り返っている方々よりもずっと親近感が沸いて、とても好き。 私は彼が通り過ぎる前に笑顔で声をかけた。 「あ、おはようございますっ!」 「ん?おはよう。」 太子様はその足を止め太陽みたいな笑顔を私に向けて下さった。 「お前さんはいつも私に挨拶をしてくれるな!名前は?」 「え、あ…なまえ、です」 初めて交わす会話に心臓が爆発してしまいそう。そんな私の気持ちを知らない太子様はじろじろと私を観察していて。 そして、突然。 「なまえか!気に入ったでおま!!」 ニッと笑うと私の頭を数回撫で私の顔を覗き込んだ。 「またな!」 そう言うと声高らかに笑いながら去っていった。 「…!」 私は太子様を見送るとヘナヘナとその場に座り込んだ。 びっくりと緊張と、あとはときめきとかそんなのがごっちゃになって腰が抜けてしまったから。 「…また、な?」 太子様が最後に言った言葉を繰り返せば顔が赤くなるのを感じる。私みたいな身分の低い女の名前を覚えていただいただけでなく、「また会おう」と遠回しながら約束をいただいてしまったのだから。 「ありがとうございますっ…!」 もう姿は見えないけど、私は太子様に向かって頭を下げた。 これが私と太子の非日常の始まり。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 挨拶/太子 fin 2010.04.29 |