相合い傘 「雨、か。」 オレには肉体がないからこの世界のものに触れることはない。 だから雨が降っても雪が降っても、例え石を投げられても当たることはなくて。 それなのに目の前の愛しい少女は優しく微笑んで自分の持っていた傘を開きオレの上に翳した。 灰色の空に向けられたなまえの傘の色は綺麗な空色。 「また寒くなりそうだね。」 「なまえ、オレはいいからちゃんと傘に入りなよ。」 風邪引くよ、と伝えるとオレの方へ視線を移しゆっくりと瞬きをした。 「大丈夫。」 そう言うとにっこりと笑い強引にオレを一人用の傘に入れてくれた。 「なんでオレにも傘貸してくれるの?」 きっとオレの姿が見えない他人が見たらなまえは変な事をしているように映るだろう。 「だって、閻魔と恋人らしいことしたいじゃん。」 えへへ、と恥ずかしそうに笑うなまえ。 「恋人らしいこと?」 「そ、相合い傘といえば少女漫画の王道でしょ。」 傘をふらふら揺らして、相合い傘とやらをアピールしているようだ。 「ふーん。」 「形なんてバカバカしいって閻魔は思うだろうけど、たまにはさ。」 オレにはその相合い傘の良さがわからないけど、隣にいるなまえが嬉しそうに笑ってくれているから、それだけでオレまで頬が緩んでしまう。 「……。」 ふと視線を送ると幸せそうななまえと目が合って、傘の中で笑い合うとまるで二人の秘密の場所のように感じる。 「うん。いいかもしれない。」 「ん?なぁに??」 「ううん。オレは幸せ者だと思っただけ。」 そう伝えるとなまえの頬は赤く染まった。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 相合い傘/閻魔 fin 2010.04.23 |