その髪から感じる 「髪のびましたね。」 目の前でポタリポタリと雫が髪を伝い落ちていく。鬼男はぼんやりとその雫を眺めていた。 「そう?」 最近切りに行ってないなぁ、と肩にかけていたタオルで乱暴に髪を拭くとなまえの髪から雫が跳ねて鬼男の頬を濡らす。 「いつ頃から伸ばしているんですか?」 静かにその雫を拭いボサボサになったなまえの髪に触れると頬についた雫と同じように冷たくて心地良い。 「んー、鬼男に出会ったのはいつくらいだっけ?」 「僕?」 「うん。」 なまえの髪を整えてやるとほんのりと自分と同じ香りがしてくすぐったい。 鬼男はこの時間が好きだ。 自分と同じ香りがするなまえの髪を触れている間は、まるで好きな人と自分が同じ存在になったような錯覚に陥ることが出来るから。 「僕がなまえさんに会ったのは、高校入学してすぐですよ。」 「じゃあ、この髪もそれくらいから伸ばしてる。」 鬼男が髪をいじる手を止めると、なまえは少しだけ俯いた。 「鬼男が髪の長い子が好きって閻魔から聞いたから。」 後ろからだったから表情は見えないが、なまえの顔はきっと赤く染まってるにちがいない。唯一髪の隙間から見える耳が桜よりも綺麗に色付いている。 「じゃあ、この髪は僕達の歴史みたいなものですね。」 そっと髪にキスを落として笑う鬼男もその頬を赤く染めて、ちらりとその顔を盗み見たなまえは嬉しそうに笑う。 「ばーか。」 クスクスと笑うなまえを抱きしめて、それに応えるようになまえも腕をのばして。 お互いから感じる体温とシャンプーの香りに包まれて二人は眠りに落ちた。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ その髪から感じる/鬼男 fin 2010.04.21 |