春の出会い 知らない人が沢山いる教室はどこか落ち着かない。新入生としての不安も合わさってより一層緊張が増す。 もう高校生活が始まって幾日が経つというのになまえはたった一人で教室を見回した。 授業も終わり騒がしくなった教室には、もう既に女の子特有のグループが出来つつある。 ―私も誰かと話さなきゃね…。 そう頭ではわかっていても昔からこういったことが苦手ななまえはただぼんやりと誰かが話し掛けてくれるのを待つことしか出来なかった。 「なまえさん。」 突然後ろから名前を呼ばれ、肩をビクリと震わせたなまえはゆっくりと声のする方へ振り向くと、そこには茶色の髪をした女顔の男の子が立っていた。 なまえは首を傾げる。 「…えっと、何でしょうか。」 恐る恐る答えると、その男の子は嬉しそうに笑う。 「ああ、やっぱりなまえさんだ!僕の事覚えてない?小学校が一緒だったんだけど。」 ニコニコと笑顔を絶やさないその男の子はなまえの隣の椅子に座り正面から向き合った。 「小学校…?」 なまえはぼんやりと小学校の頃を思い出そうとするが、思い出す前に正面の男の子が口を開いた。 「覚えてないかな?僕、小野妹子っていうんだけど。」 「小野…君。」 いたかもしれない。しかしいくら記憶を探っても小野妹子という人物はぼんやりと曖昧なものだ。 「同じクラスだったの低学年だけだから、わからないかぁ。」 小野と名乗る男の子は残念そうに肩を落とした。 「ごめんなさい…。でも、小野君はよく覚えてたね。」 「え、あー…まあ。」 言葉を濁した妹子の視線が泳ぎ、ほんのりと頬が染まる。 「と、とにかく!これから同じクラスだし、宜しく。」 スッと差し出された掌。 なまえは一瞬戸惑ったが妹子の笑顔に負けて握手を交わした。 「あ、こちらこそ…宜しくお願いします。」 「それじゃ、僕これから生徒会の集まりがあるから行くね!」 また明日、と言って去っていく妹子をなまえは見送った。 「なんだかご機嫌だな。」 生徒会室に着いた妹子は生徒会の先輩に言われ嬉しそうに笑う。 「実は初恋の人が同じクラスにいて…。」 「ほー、それは運命感じるなぁ。」 頑張れよー、と冷やかすように先輩に背中を叩かれた妹子は先程なまえと握手を交わした掌をにぎりしめた。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 春の出会い/妹子 fin 2010.04.18 |