瞳に映るもの

桜がひらひらと舞う。
まるで雪のように宙を舞いなまえはただその美しさに見とれることしか出来なかった。

「…曽良さん。」

ふと、思い出したかのように恋人の名を呼ぶと隣で本を読んでいた曽良が顔をあげた。

「何か。」

「あ…いえ、凄く桜が綺麗ですね。」

曽良さんは見ないのかなと思いまして…と語尾を濁しながら笑う恋人は言葉を自分に向けていても視線は相変わらず桜に行きこちらに向くことはない。
それが面白くなくて曽良は小さくため息をついた。

「えぇ、綺麗なのは知っていますから。」

「そうですよね…。」

そう言って再び本に視線を落とした恋人はどうやら虫の居所が悪いらしく言葉に刺がある。怒っている理由が全くわからないなまえは曽良の言葉に肩を落とした。

「…………。」

「…………。」

先程までは桜に気を取られ沈黙なんて気にならなかったなまえだったが、一度曽良の刺さるような言葉を聞いてからは桜なんて殆ど意識に入ってこない。
曽良に気付かれないようゆっくりと視線を送ると、本を読んでいるはずの曽良と目があった。

「…何ですか?」

冷ややかな視線がなまえを貫いてドキリと胸がなる。

「あ…えっと」

胸の鼓動が何となく曽良に伝わってしまうような気がして思わず言葉に詰まってしまった。
しかし、そんななまえを見て曽良は薄く笑い、手にしていた本を閉じてそっとなまえに触れた。

「桜はもう見ないのですか?」

曽良に触れられて意識は完全に桜なんてものは入らないなまえはしっかりと曽良の瞳を見つめた。
二人の視線が交わり痛々しい空気が消えていく。

「えぇ。」

なまえがふわりと微笑むと曽良は嬉しそうに目を細め触れていただけの手をなまえの手に絡め、なまえもその温かい手を優しく受け入れた。

「それはよかった。」

小さく呟いた曽良は半ば強引に絡めた手を引きなまえを胸に閉じ込める。

「曽良さん?」

「あまり…その瞳に多くを映さないでください。」

耳元で囁かれ、曽良が嫉妬をしてくれていたことに気付きなまえは頬が熱くなっていく。

「貴女の瞳に映るのは僕だけで十分です。」

曽良に応えるように空いている手を背中に回すとより強く抱きしめられた。



















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瞳に映るもの/曽良
fin
2010.04.16

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