チカラ 「なまえさん」 名前を呼ばれて顔を上げると、目の前には愛しい恋人が恥ずかしそうに、そして不安そうな瞳でこちらを見ていた。 「なぁに?」 こんな目をしているとき、この恋人のいう言葉はただ一つ。 なまえは優しい声で微笑み鬼男の言葉を待った。 「あ、の。なまえさんに…触れてもいいでしょうか?」 恋人なんだから触れたいときに触れてくれたらいいのに、真面目なのか理由はわからないが必ず了承を得る。 「どうぞ。」 なまえが「だめ」なんて答えるはずないのに、肯定の言葉聞くと鬼男は安堵の表情になる。 そして恐る恐る褐色の手が伸びて自分の掌に重なった。 優しい鬼男の手はまるで初めて硝子を触るこどものように丁寧だ。何度肌を重ねても変わらない優しい手。 「鬼男の手は優しいね。」 ギュッとなまえの手が鬼男の手を握り返すと、困ったように笑った。 「いえ、僕は鬼ですから力の加減が出来ないんです。」 悲しくて不安そうな目は今にも泣いてしまいそうだ。 「もしかしたらなまえさんを傷つけてしまうかもしれない。」 気が付くと鬼男の肩が、手が震えている。 「私は…」 なまえはそういうと握った鬼男の手を自分の頬に触れさせ、にっこりと笑った。 「この手に傷付けられるなら幸せだよ。」 頬に触れた鬼男の手を愛おしそうに撫でると、鬼男の頬がより一層赤く染まる。 「なまえさん…。」 「だから、遠慮なんてしないで。」 ね?と小首を傾げると鬼男は無言のまま何度も首を縦に振った。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ チカラ/鬼男 fin 2010.04.07 |