幸せのヒトコマ 「なまえちゃん。」 芭蕉さんの声が彼の背中から耳に直接伝わる。ブルブル震えてるみたいでいい気持ち。 今、私は芭蕉さんの背中に体を預けている。 一番私の好きな場所。 昔は芭蕉さんがおんぶをしてくれたけど、今の芭蕉さんと成長した私では流石に無理だから。 「なまえちゃん。」 おんぶはしてくれなくなったけど芭蕉さんは私の名前を呼び続けてくれる。 それが嬉しくて背中に置いた手で芭蕉さんの着物をにぎりしめる。くしゃりと皺になってしまうけど気にしない。 「なまえちゃん。」 もぞもぞと芭蕉さんの体が動いたので顔をあげると、芭蕉さんと向かい合い優しく細められた瞳と視線が合った。 「芭蕉さん。」 私が名前を呼ぶと芭蕉さんの口元が緩められたので、私の口元も緩んでしまう。 芭蕉さんを見ていたら何となく意地悪をしたくなって私はそっと瞳を閉じた。 「えっ…」 うっすらと目を開くと案の定耳まで真っ赤に染めた芭蕉さんがいて。 悪戯心に火のついた私はそんな芭蕉さんを見て嬉しくなってしまう。 「芭蕉さん。」 瞳を開き急かすように名前を呼べば、恥ずかしそうな芭蕉さんが私を見ていた。 再び瞳を閉じて少しだけ私の体を芭蕉さんに近づける。 誰もいないのにキョロキョロと周りを確認してからゆっくり芭蕉さんは私に触れるだけのキスをしてくれた。 「…。」 真っ赤になってる可愛い芭蕉さんに対し、意地悪な私は不満そうに芭蕉さんを見上げて、唇を尖らせた。 「な、なに?」 「これだけ?」 そういえば芭蕉さんは首まで赤く染めてしまう。 「ダメ、かな。」 本当はダメじゃない。でも芭蕉さんの困った顔が好きなんだもの。 「だめ。」 もっとして、というようにさらに近づくとキスはしてくれなかったけど芭蕉さんの腕の中に捕らえられてしまった。 「これは?」 ドキドキと心臓の音が背中で聞いていたときよりもずっと大きく聞こえる。 「ふふふ。」 嬉しくて笑ってしまう。 そうすれば、芭蕉さんも嬉しそうに笑ってくれる。 「しょうがないですね。」 今日は許してあげます。と偉そうに言えば安心したのかほっと息を漏らした。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 幸せのヒトコマ/芭蕉 fin 2010.03.31 |