サボタージュの駆け引き

気持ちが溢れてしまいそうになる。
この気持ちを彼女に伝えたら、この関係は終わってしまうのだろうか。
そう考えると何も言えない弱い僕。
僕と彼女の関係は酷く不安定で、でもぬるま湯のように心地良い。











‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐




昼休みももうじき終わる。そろそろ教室に戻らないといけない。
出来ることならもう少し屋上に居たい、そしてお昼寝をしてしまいたいくらい心地良い。
しかし真面目な性格がそれを許さないもんだから僕は重い腰をゆっくりと上げた。

「妹(いも)、お妹!」

空から声が聞こえた。
びっくりして顔を上げると、屋上と廊下を繋ぐための扉の上に愛しい人が手を振っていた。
ていうか、そんなところに人がいるなんて思わなかった。

「あのさ、なまえ。僕のこと芋って言うのやめて言ってるじゃん」

愛しい人に呼び止められた喜びから頬が緩みそうになるのを堪えて、僕は不機嫌そうな声で答えた。

「わかってないなぁ、私は食べ物の‘芋’じゃなくて、ちゃーんと妹子の‘妹’で呼んでるもん」

僕が不機嫌な声を出してるのに気がつかないのだろうか?それとも僕の気持ちを知っているから、こんな反応なのか。
なまえはニコニコと笑っている。

僕らは何とも不安定な関係だ。

「そんなのわかんないよ。ていうか教室戻らないと。」

僕が扉に近づくと、なまえは姿を消した。
そして

「今日はもう授業受けられない!」
と叫んだ。
ていうか、サボりたいです!となまえは小さく付け加えた。

「何馬鹿な事言ってるんだよ。」
僕は時間を気にしながら、梯を登ってなまえのいる場所まで行った。
なまえのペースにいつも振り回されてばかり。
なんとも心地よいが、同時にこれ以上踏み込めないもどかしさが苦しい。

そんな僕の気持ちを知らないなまえは風に髪をたなびかせ僕が来るのを待っていた。
その証拠に僕がなまえを立たせようと手を延ばすと、なまえは僕を引っ張って、自分の隣に無理矢理座らせた。
馬鹿な事ばかりするなまえに一言言ってやろうとしたら、チャイムの音が響き渡った。
慌てて立ち上がろうとすると、なまえは僕の服を引っ張る。
振り返ると、綺麗に整えてある眉が下がり、なんとも悲しそうな顔をしているなまえが僕を見ていた。
心臓がドクリと大きくなる。

「行っちゃうの?」

一気に顔が熱くなる。
馬鹿やろう、頬赤くなるな!

「…ふふっ、お妹の困った顔可愛い。」

僕がなんて答えようかとかいろいろと考えていたのに、なまえはケタケタと笑う。
こんな行為でさえなまえにとってはただのじゃれあいにすぎないのだと思う。
可愛いなんて言われたって嬉しくなんてないよ。

「ったく、もう…いいよ。」

僕はまた不機嫌そうに呟きながらなまえの横に改めて座った。
極力なまえの方を見ないように。
たぶん、今は顔が真っ赤になってると思うから。
弱いなぁ、とは思う。

「ホントに?よかった。一人でサボる勇気はなかったんだ。」

なまえは僕の服を手放し、その手で髪を顔にかかる髪を耳にかけた。

「ありがと、妹子。」

真っすぐ僕を見て笑うなまえ。
なまえの動作ひとつひとつに振り回されても、この笑顔で全てどうでもよくなる。
今、この瞬間だけは僕だけの笑顔だから。

「いいよ。でも今日だけだからね。」

僕はそういうとごろんと横になった。
青い空となまえが見える。
今日もなまえと一緒にいられる幸せが、一歩踏み出す勇気を掻き消した。







相変わらず僕と彼女の関係は不安定。






‐‐‐‐‐‐‐‐‐

妹子/サボタージュの駆け引き
fin
2009.10.28

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -