甘えん坊

最近何度メールしても返事がない。仕事が忙しいのだろうか?
最近すれ違いが多くなった恋人を思うと胸が締め付けられる。自分の気持ちは出会った頃と何一つ変わっていないのに会うことどころか連絡すら取れないなんて。
気がついたときには足が恋人の家に向かっていた。

ピンポーン

チャイムが鳴り響く。もしなまえが出てこなかったらメモだけ残して帰ろう、そう考えていると扉の向こうから恋人の声が聞こえてきた。

「ふあーい。」

彼女は無用心に誰が来たのか確認せずに扉を開け、目の前にいた鬼男を見て嬉しそうにと笑う。

「わぁ、鬼男じゃん。来るなら連絡頂戴よ。」

「…何度も連絡したんですけど。」

鬼男はギロリと睨んだ。気の抜けた笑顔を見て先程までの心配する気持ちはすでに吹き飛んでしまっている。

「あ、れ?…そうえば、最近携帯を見てないかも。」

ごめんね、と笑いながら彼女は鬼男を部屋に招き入れた。

「もしかして、仕事が終わったばかりなんですか?」

「んー、まぁね。」

休日もなく働く彼女。たった一つしか変わらないのに既に社会人のなまえと学生の自分の差がもどかしくて。
鬼男は目の前を歩く愛しい人を、静かに抱きしめた。

「お疲れ様です、なまえさん。」

「ありがと。」

ふわりとなまえの香りと言葉が鬼男の心を潤し、それと同時にひどく安心する。
いつまでも自分を解放しない鬼男になまえはクスクスと笑った。

「甘えん坊さん、淋しかったの?」

鬼男は何も答えず、ただ無意識に腕の力を強めた。

「そっか。」

「…なまえさん。」

見上げると鬼男の真剣な眼差しが自分を射ぬいて。
彼にどれだけ愛されているのか、どれだけ淋しい思いをさせていたのかを実感する。

「連絡とらないでごめんね、今日は鬼男が来てくれて本当に嬉しいよ。」

甘えるように鬼男の体に擦り寄れば、ドクドクと心臓の音が聞こえてきた。

「…僕、餓鬼みたいですね。」

「ふふふ、そうやって甘えてくれる鬼男が大好きだからいいよ。」

「そう、ですか?」

「うん。甘えん坊なところも、淋しがり屋なところも、こうやって会いに来てくれる優しいところも全部大好き。」

優しく微笑むなまえ。その笑顔に引かれるように鬼男はゆっくりと唇を落とした。

「ありがとうございます。」

満たされた心でなまえを見ると

「鬼男やっと笑ったね。」

よかった。と嬉しそうに彼女。
何処までも大人ななまえにこどもじみた自分が恥ずかしくなったが、今日は彼女の優しさに甘えてしまおうと、鬼男は再び彼女に口づけをした。


















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甘えん坊/鬼男
fin
2010.03.16

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