三文の得 今日はなんだか目覚めがよかった。 たったそれだけだったけど、私はウキウキしながらいつもより早く学校へ向かう。 何だかいいことがある予感。 まだ誰もいない廊下は静かで、私の知らない物のように見える。 何だか楽しくて、太陽の光と影の境目をバランスをとってあるいた。 「なまえさん。」 馬鹿なことをしていたせいか、ギクリと肩が動く。ゆっくり振り向くとそこには褐色の肌をした男の子が立っていた。 「お、おはよう…えっと、鬼男くん。」 「おはよう。今朝はずいぶん早いんだね。」 鬼男君はそういうと私の横に立ち、ニコリと笑う。 あれ?私鬼男君が笑ったところ見るの初めてかも。 「うん。今日は珍しく早く起きちゃってさ。鬼男君はいつもこんなに早いの?」 「まぁ…生徒会の仕事が残ってるときは、早いかな。」 「大変だねぇ。」 「ははは。」 私と鬼男君はなんて事もない話しをしながら教室へと向かう。 今まで怖い人だと思ってたけど、そうでもないんだなぁ。なんて考えていると鬼男君はぽつりとつぶやいた。 「なまえさんとは同じクラスだけどこうやって話すのは初めてだね。」 そう言われて鬼男君を見上げるとばっちり目が合ってしまい、何となく恥ずかしい。 素早く目を反らしながら私は笑った。 「そうだよ。一年もあったのに勿体ないことしたね。」 えへへ。とわざとらしく笑いながら再び鬼男君を見上げると。 「僕、ずっとなまえさんと話してみたかったんだ。」 鬼男君は恥ずかしそうに頬をかきながら笑った。 「へっ?」 予想外の一言に気の抜けた声が喉から飛び出して、誰もいない廊下に響き渡る。 「だから今日こうやって話しが出来て凄い嬉しいや。」 キラキラと朝日に負けないくらい眩しい笑顔。 鬼男君ってこんな人だったんだ。 さりげなく教室の扉を開けてくれる紳士的な態度も、少年みたいな笑顔も、今日早起きしなかったら気付けなかった事だ。 「ありがとう。私も嬉しいよ。」 真っすぐ鬼男君を見ながら言うと、褐色の肌が何となく濃くなったような気がする。 鬼男君は何も答えなかったけど、嬉しそうに笑ってくれた。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 三文の得/鬼男 fin 2010.03.13 |