バスに揺られて 乱暴な運転によりガタリとバスが大きく揺れた。その拍子に僕の腕から荷物が逃げていく。 あっという間に周りには僕の荷物が散乱してしまった。 周囲の目線が一気に僕を向く。 恥ずかしくなって慌てて荷物をかき集めていくが今日に限って荷物の多い日課で。集めても集めても終わらない。 「うわっ!」 再びバスが揺れて、僕は焦って鞄をひっくり返してしまった。 集めた荷物が鞄から溢れていく。ああ、今日は厄日だ、そうに違いない。 「小野君、大丈夫?」 優しい声が降ってきて転がっていった筆入れを渡された。頭をあげると見慣れた顔。 「あ…なまえさん!ありがとう。」 顔が熱くなってきた。まさかなまえさんがいたなんて…。 彼女の前でこんな恥を曝すくらいなら太子先輩のパシリをやっていた方がましだ! 「いえいえ。」 なまえさんはにっこりと微笑むと床に散らばった僕の荷物が全て入るまで手伝ってくれたて。 集め終わると二人掛けの椅子に一緒に座り荷物の確認をした。 「他に落ちてない?」 「うん、これで全部だと思う。」 何と無く顔を上げているのも恥ずかしくてもう一度鞄の中身を確認するふりをする。 「そ?よかった。」 「本当にありがとう」 「ううん。小野君はいつも助けてくれるから。」 「へ?」 不意打ちの言葉に思わず顔をあげるとなまえさんと目が合った。 「だって、生徒会で忙しいのにクラスの仕事まで手伝ってくれるでしょ。」 「あ…ああ、そのことか。」 「そう。いつも本当に助かってるんだ。」 なまえさんが嬉しそうに笑っている。それを見て僕の胸は爆発するくらい高鳴って。 「そそそんな…あれくらい、当然だよ!今日の僕の方が助かっちゃったって。」 どうしていいかわからなくて、僕はただ頭をかいてごまかすしかできなかった。 「ふふふ。」 「あっ、そうだ。今日のお礼がしたいからなまえさんの、その…連絡先を教えてくれない、かな?」 もう自分で何を言ってるかわからないくらい緊張している。今聞くような事じゃないのに! ああ、でも連絡先教えてもらいたいな。 「そんな、お礼なんていいよ。」 僕の緊張に全く気付かないなまえさんは申し訳なさそうに笑う。 そうだよな、調子よく連絡先なんて教えてくれないよな…。 心の中でがっくりと肩を落とすと彼女は再び口を開いた。 「でも、私も小野君の連絡先知りたいから教えてくれる?」 お礼とかなしだよ。と釘をさすように言うと可愛らしくてなまえさんによく合った携帯を取り出し、僕に向ける。 僕は嬉しくて調子にのり、再び鞄を落としそうになった。 「わっ!」 「あっ!」 ギリギリのところで鞄を支えると、なまえさんはクスクスと笑う。 「小野君って意外とおっちょこちょいなのね。」 「いやぁ…」 僕はなんとか携帯を取り出しながら笑った。 「あ、私ここで降りるから小野君後でメール送ってもらってもいい?」 「うん、ごめん。モタモタしちゃって。」 「そんなことないよ。」 慌ててなまえさんの連絡先を赤外線で受け取る。 世の中便利になってよかったと心から思う。 「それじゃあ、またね。」 なまえさんは可愛らしく手を降って下りていく。 今日は厄日だと思ったけど、全くそんな事無い。むしろ最高の日だと窓の向こうで手を降るなまえさんの姿と携帯の画面を見てそう思った。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ バスに揺られて/妹子 fin 2010.02.21 |