悪夢

君の首を締める夢を見た。

貴方はされるがまま、私に微笑んでくれたような気がする。








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目が覚めたとき体中が嫌な汗で濡れていた。
私が跳び起きたもんだから、隣の布団で眠っていた芭蕉さんまで起こしてしまったようだ。

「なまえちゃん、どうしたの?」

まだ眠たそうな目を擦りゆっくりと体を起こす芭蕉さん。
私は彼の問いかけに答えなかった。
唯、ぼんやりと夢の中で私の手が締めていた彼の首を眺めていると、芭蕉さんは私の額の汗を拭いながら笑った。

「怖い夢を見たんでしょ。」

昔からそうだもんね。
なんて言いながら芭蕉さんは私を優しく抱きしめた。
大好きな彼の手が私の背中を撫でる。
何もかも御見通し。
怖い夢を見たときは必ずこうしてもらった。
何年ぶりだろう?
その優しい手は昔から変わらない。

私はされるがまま彼の胸に耳を当てた。
ドクン、ドクンと心臓の音が聞こえる。

「大丈夫だよ。」

胸に当てていない耳が芭蕉さんの声を拾いあげると、私の目から涙が落ちていった。

「うぅ…っ、ひっ…、ばしょ、さん。」

まるでこどものようにみっともない声をあげて泣く私。
何も言わず私を抱きしめてくれる芭蕉さん。

大好きなのに。

声にならない思いが涙となって零れ落ちていく。
昔よりも小さくなった大好きな人。私が大きくなっただけなのかもしれない。
でも日に日に膨らむ不安定な思いは、それだけではないと告げる。
芭蕉さんは私が泣き止むまでずっと背中を撫でてくれた。
まるで幼いこどもをあやすように。

すん、と鼻をならして涙でボロボロになった顔を上げると芭蕉さんは私の顔を見て笑った。

「あは、凄い顔。昔と同じ顔だね。」

芭蕉さんがこどものように笑うから、私もつられて笑ってしまった。ごめんね、と謝るつもりだったのに。

「じゃあ、昔みたいに一緒の布団でもいい?」

言いそびれたごめんねという言葉を飲み込んで、私は芭蕉さんの胸に再び耳を当てながら小さな声で聞いた。
どんなに小さな声だろうが芭蕉さんは私の声を聞き漏らしたりしないことを、私は知ってる。
芭蕉さんの胸の音がさっきよりも少し速くなったような気がする。

「い…いいけど、狭いよ。」

優しい芭蕉さん。
きっと芭蕉さんの頬は赤く染まっているに違いない。
そう考えたら、ほんのり自分の頬も赤く染まったような気がした。

「ありがとう。」

私は飲み込んだごめんねの変わりに、ありがとうを呟いた。
芭蕉さんは何も言わずににっこりと笑ってくれた。

芭蕉さんの布団は本当に狭くて、昔は二人で入っても違和感なんてなかったのに。
でも、さっきみたいな不安はどこにも無かった。

「大きくなったね。」

こどもを寝かしつけるように背中をトントンと動く手の動き。
私の意識が遠退くまで芭蕉さんは続けてくれた。
少しずつ重くなる瞼の裏には、さっきの悪夢はもうない。
芭蕉さんの声も聞こえない。
私は大好きな人の腕の中でゆっくりと眠った。


今度は幸せな夢が見られるような気がする。


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芭蕉/悪夢
fin
09.10.20

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