チョコレートの告白 巷ではバレンタインということでチョコレートが安く売っている。私は馬鹿みたいに板チョコを買い込んだ。 大好きなチョコを恥をかかずに大量買うことが出来るのはバレンタインのお陰。自分にとって無縁ではあるが大切なイベント。 今日もまた大量に買い込んだチョコを抱えウキウキと家に帰る途中、近くの公園にクラスメイトの妹子がいた。 ぶらんこにユラユラと揺れている。びっくりさせてやろうと思い静かに後ろに回り込んだ。 「お妹!」 「あ…なまえ。」 声をかけると驚いた顔をして顔をあげた。いつもなら『お芋っていうなよ』って怒るくせに今日は何も言わない。 私は隣のぶらんこに腰かけた。 「こんなところで何してるの?」 よく見ると手には可愛い包み。 からかうように笑うと妹子は困ったような顔をする。 「えーっと…」 「あ、もしかして呼び出されてチョコ渡されちゃった感じ??」 「うーん、いや…ね。なまえは?」 妹子は言葉を濁すと可愛い袋を隠すように持ち替えた。 「ふぅん。私は大好きなチョコを買い込んできたところ。」 自慢げにスーパーの袋を開くと様々な種類の板チョコの甘い香が解放され私幸せな気持ちにさせた。妹子は袋を覗き込んで笑う。 「誰かにチョコをあげるんじゃなくて、全部自分用?」 「勿論。あ、でもせっかく今日会えたんだし…妹子に一つあげる。」 いつもお世話になってるしね、と言いながら袋から一番お気に入りのチョコを取り出して妹子に渡した。 「これ、すっごく美味しいんだよ。私のお気に入り。」 「…ありがとう。」 妹子は首まで真っ赤にしてチョコを受け取り、嬉しそうにチョコを眺めた。 「ちょっと、何まじまじとチョコを見てるのさ!こっちまで恥ずかしくなる。」 「いや…だって好きな子からチョコを渡されたの初めてだから。……!」 妹子は言い終えてから慌てて口を抑え『しまった』という顔をする。 「なにそれ。」 突然の告白にこっちまで顔が熱くなっていまう。妹子は深呼吸をすると改めてこっちを向き持っていた可愛い袋を私に渡した。 「あー、これ…僕の気持ち、です。」 私の頭は真っ白で、渡された袋を素直に受け取った。それを妹子は安心したような顔で見ていて。 「実はさっきなまえの家に行ったんだけど、出掛けてるって言われて…でもここに居れば必ず会えるって教えてもらったから」 待ってたんだ。と少年のように笑う妹子。 「えっと、これ…」 やっと頭が動くようになった。顔どころか体まで熱くて、だって、だって妹子にチョコを貰うなんて夢にも思わなかったから。 「女々しいかもしれないけど、逆チョコ。言っとくけど冗談なんかじゃなくて…。」 そこまで言うと妹子はグッと言葉を飲み込んだ。そして私の目をじっと見つめ。 「…本気で好きだから。」 真剣な視線にくらくらする。 私の体は心臓が耳に付いてるんじゃないかと思うくらいドキドキといっていた。 「妹子、私…」 「うん。」 ぶらんこが不自然に止まり、妹子の視線が私を捕らえる。私はなんて答えていいのかわからなくて泣いてしまった。 「なまえ…!?ごめん。嫌、だよね。」 私の涙を見て申し訳なさそうに笑う妹子。でも、その目には悲しみの色が見える。 「あ、違うの。嫌なんかないよ。びっくりして…。」 「じゃ、じゃあ」 「私も好きなの…かな。」 いつも一緒にいたから意識したことがないだけで、妹子は大切な存在だ。 「『かな』って何さ。」 「あ、ううん。好き、妹子が好きよ。」 不安そうな顔をするから、私は涙を拭いて妹子の手を握る。 「っ!!」 「冷たいなぁ。」 長い間外で待っていてくれた妹子の手は氷のように冷たくて、私の手と正反対。 「待っててくれてありがとう。大好き。」 じわじわと温かくなる妹子の手。 「僕の方がありがとう、だよ。」 握り返された手が優しくてまた涙が溢れてしまった。それを見て今度は妹子が拭う。 さっき私があげたチョコが鼻をかすめほんのりと甘い香がした。 「これは幸せの涙?」 「うん。」 私が笑うと妹子も幸せそうに笑ってくれて。 その笑顔は大量に買い込んだチョコなんかよりずっと大好きなものになりそう。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ チョコレートの告白/妹子 fin 2010.02.14 |