先輩・後輩

慣れたように通うこの道も、今では淋しくなったなぁと思う。そんな風に感傷に浸るようになったのは何時からだろう?
思い当たるのは、3年生の先輩が受験勉強の為に学校に来なくなってからだ。あんなに楽しみだった行事の準備も生徒会室への道則も全てが暗くつまらないもののように感じてしまう。
今日だってまたつまらない卒業式への準備。どうせ、閻魔先輩も太子先輩もろくに仕事しないだろうし。何よりも3年生を送り出す行事なんてやりたくない。
そんなことを考えていると、目の前には見慣れた扉。
僕はため息をついて、いつも通りゆっくりと扉を開き足を踏み入れた。

「あ、鬼男ー!久しぶり。」

眩しい声が俺の鼓膜を揺らす。懐かしい風景が目の前に広がっていて、一瞬息が詰まる錯覚が支配する。

「…っ、なまえ先輩!?」

「えへへ、遊びに来ちゃった。」

現金だと言われてもいい。この声を聞いただけで、僕の世界が明るくかわる。

「だって、受験勉強は…」

「黙ってたけど、実は指定校推薦なんだな。」

もう受験終わってるんだ、と嬉しそうに笑う姿に心臓が締め付けられた。

「そ…そうだったんですか。おめでとうございます。」

「ありがとう。ところで、閻魔達は?」

キョロキョロと教室を見回す先輩。彼女の口から閻魔先輩の名前が出て、少し悲しくなる。

「さぁ、僕もちょっとわからないです。」

「ふぅーん。相変わらずサボってるな。ま、いいや。ところで鬼男!!」

僕が荷物を机に置くと、先輩はその隣の机の上に座る。短いスカートから綺麗な先輩の足が見えて、思わず目を反らしてしまった。

「…はい?」

「松尾先生から聞いたよ!鬼男、私の代わりにあの馬鹿閻魔の面倒をみてるんだって?」

折角反らした視線も先輩の視線が僕の目を捕らえてしまった。

「えっと、面倒をみてるわけじゃ無いですけど…ただ、あの人仕事しないので。」

「それを面倒をみるって言うのよ。鬼男は偉いなぁ。」

「…ありがとうございます。」

先輩から褒められて自然と頬が緩む。マヌケな顔になってないか心配だ。

「鬼男って褒められると耳が赤くなるんだ。可愛い。」

恥ずかしさを隠すために笑う先輩と一緒に笑って。
そんな僕を見て先輩は意地悪く微笑んだことに気付かなかった。

「鬼男が可愛いから何かご褒美をあげようかな。何がいい?」

「な…何ですか、それ。」

「何でもいいよ。ほら、先輩に言ってごらん。」

「先輩、ちょっとおっさんみたいです。」

先輩が急に俺に一歩近づいて僕の頭を撫でたから、心臓が煩いくらい鳴っている。
それがばれないように精一杯ふざけてみせたが先輩には通用しなかったみたいで。

「ふぅーん、そういう事言う?じゃ、私が勝手に決めちゃおう。」

そういうと、先輩は更に僕に近づいてきた。先輩の優しい笑顔と甘い香りに声、感触が僕の五感を奪っていくような感覚。

「そうだなぁ…鬼男にチューしてあげる。」

「せ、んぱ…」

先輩の声が脳に響いたときには唇に柔らかい感触があった。より一層甘い香りが鼻を刺激する。
目の前には可愛らしい先輩でいっぱいになっていて、僕は目を閉じることが出来なかった。

「チューしてるんだから目閉じてよ、恥ずかしいじゃん。」

唇からゆっくりと離れながら先輩は笑った。

「えっ、あ…すみません。」

まだ頭の中がクラクラしている。でも恥ずかしくて先輩をまともに見られない。

「ふふふ、鬼男の反応女の子みたい。」

「なっ…!!」

悔しいが何も言い返せなかった。
そんな俺の頬を先輩の優しい手が触れる。先輩の手は冷たくて震えていて。

「先輩…?」

「あはは、私、手が震えてるね。緊張しちゃったみたい。」

恥ずかしそうに笑うその表情が可愛くて、僕の理性がふつりと切れ先輩を強く抱きしめた。

「す…好きです!なまえ先輩が、好きです。」

先輩甘い香りが再び香る。心臓が爆発するんじゃないかってくらい鳴って、耳までドキドキいっていた。

「鬼男。」

声が聞こえた。それと同時に僕の背中に温かい先輩の腕がまわる。
全神経が先輩と触れている部分にいってしまったかのように、先輩にの体温が混乱している僕にリアルに感じ取れた。

「私も、好き。」

そういうと、先輩は僕の胸に顔を埋め。

「…!!」

先輩の言葉を理解するのに少しだけ時間がかかり、理解した瞬間嬉しくて小さな先輩を捕らえている腕に力を入れてしまった。

「鬼男、苦し…。」

「あ、すみません。」

先輩の声を聞き慌てて解放すると、嬉しそうに笑う先輩と目が合って。
先輩は静かに瞳を閉じた。

「!」

その意味を理解すると再び心臓が高鳴り、僕はゆっくりと先輩の唇に自分の唇を重ねた。



















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先輩・後輩/鬼男
fin
2010.01.26

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