星に願いを はぁ、と息を吐くと寒さで息が白くかわり闇に消えていく。それを見るだけで寒さが倍増してしまう。 ブルブルと寒さに身を震わせながら廊下を歩いていると朝廷に広がる庭のど真ん中で青い物体が揺れたように見えた。 ―何? この広い朝廷内で青といえば一人しか浮かんでこない。もしもそこにある物体がその人物だったら大変な事になる。風邪をひかれる前に暖かい部屋に連れていかなければ。 なまえは確認のため庭に足を踏み入れた。 「…太子?」 半信半疑で暗闇の中で動く青い物体に問いかけた。すると、こちらに気付いたのかもそもそとこちらを向いた。 「びっくりした、なまえか!」 予想通りの人物になまえはがっくりと肩を落とす。仮にも摂政である人がこんな場所で何をしてるのか。 「太子、何してるんですか。」 「うん?何って空を見てるに決まってるだろ。」 太子はそう言うと空を見上げた。 「なんでこんな寒い中馬鹿な事をしているんですか。」 「ばっ馬鹿っていうでない、おま!!星を…流れ星を探しているんだ。」 「…太子って馬鹿で乙女なんですね。」 はぁ、とため息をついてなまえも太子と同じように空を見上げると、確かに星がキラキラと輝いている。 すると、キラリと星が流れ落ちた。 「あ、流れ星!!」 なまえが嬉しそうに言うと、太子は自慢げに笑う。 「何、ニヤニヤしてるんですか。気持ち悪い。」 「酷っ!」 「酷くありません。」 そんなやり取りをしている間にも星は一つづつ夜空を滑り落ちていく。 太子はコホンと咳ばらいをした。 「ここはだな、この朝廷内で一番星が見られる場所なんだ。」 「何ですか、急に…。」 「いいから聞け。実は、この場所で見る流れ星に願いをかけると叶うという逸話まである。」 えへん、と偉そうに胸を張る太子。暗闇でもわかるくらい憎たらしい表情だ。 「へぇ…そこで太子はコソコソ乙女のようにお願い事をしていたんですね。叶いました?」 「もちろん。聞きたいか?」 「いや、太子の願いなんだからカレーが食べられますようにとかそんなのでしょ。」 「さっきから酷いな、私は聖徳太子なのに!!もっと凄いお願い事をしてるぞ!」 ギャーギャーと暗闇の中太子の声が響き渡る。眠っていた人達を起こしてしまいそうだ。 「あーもう!そんなに大きな声出さないでくださいよ。」 「だって、なまえが…」 本日何度目になるかわからないため息をつきながらこどものような太子を落ち着かせる。 こんな人が国の政をしているのだから笑ってしまう。 「で、どんな願い事をしたんですか?」 「それは…なまえと」 「私?」 まさか自分の名前が出て来るとは思っていなかったなまえは呆気に取られてしまった。 「なまえと一緒にこの星が見られるように、と。」 「そんな事位、寒い中星に願いをかけるのではなく直接誘ってくださいよ。」 「だって…」 「だってじゃありません。風邪でもひいたらどうするんですか。」 こどもを叱るように言うと、太子はしょんぼりと俯いた。 「そしたら、星になまえが私の看病をしてくれるよう頼むさ。」 「…ホントに馬鹿ですね。」 「ちがっ、そんな事を言ったらお前は私の方が偉いから仕方なしに一緒にいてくれるだろ!?それじゃ嫌なんだ。」 「へ?」 「仕事としてではなく、なまえと一緒にいたい。」 突然の告白になまえは自分の顔が、体全体が熱くなっていくのを感じる。 「…。」 「……。」 暫くの沈黙を破ったのはなまえだった。 「私は…太子と一緒にいるときに仕事だからと考えたことなんてありません。」 「へ?」 「馬鹿ですね。今まで私は仕事だから一緒にいたのではなく、太子の傍にいたいから一緒にいたんですよ。」 「本当に…?」 「えぇ、ホント。気付きませんでしたか??」 不安なのか何度も確認してくる太子を安心させるために、いつもより一歩近づく。そして、冷たくなっている手で、更に冷たい太子の手をにぎりしめた。 「な…なんだ、そうだったのか!!」 太子は嬉しそうに笑うとなまえを引き寄せて控え目に額に唇を落とす。 「太子。」 なまえも太子を抱きしめようと腕をのばしたが、いきなり引き離され太子が顔を覗き込んだ。 「よしっ、もう一カ所お前さんと行きたいところがあるんだ!行こう!!」 「はぁ!?いや、寒いからもう帰りたいんですけど…」 「私の傍にいたいんだろ?さ、行くぞ!!」 太子のおしに負けて、なまえはその日家に帰ることはなかった。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 星に願いを/太子 fin 2010.01.19 |