ヤキモチと着信音

「はぁ。」

妹子は小さくため息をついた。久しぶりに会った恋人は自分よりも携帯に夢中で。
何か話し掛けても上の空、向かい合って座っているのに目すら合わない。
昔だったら、こうやって向かい合って座るとお互いに目が合うか合わないかとか、髪型が変じゃないかとか…そんなくだらないことで笑いあってたのに。
仕方ないので妹子も携帯を取り出してみるが、誰かからメールが送られてくるわけでもないし携帯と睨めっこするような気分にもなれず、妹子は小さくため息をついた。

何か彼女の気を引くことは出来ないだろうか。

暫く考えてメールを送ることにした。
本人を目の前にメールを送るなんて…と妹子は自分の心の狭さにうんざりしながら送信ボタンを押した。

『♪〜♪〜』

暫くすると彼女の携帯が光り、メールを受信したという事を知らせる音が鳴り響く。

「あれ…着信音変えた?」

その音はいつも聞いているものと異なる。
妹子が聞くと彼女はメールを確認するでもなく携帯を閉じて笑った。

「ううん、ずっとこれだよ。」

「えぇ?僕聞いた事ないけど。」

何度も彼女の着信音を耳にしたことがある。妹子がわからないといった顔をすると、彼女は携帯を開き、妹子に画面を向けた。

「これは妹子専用の音なの。」

彼女の携帯の画面には‘小野妹子’の文字。
その見慣れた名前が彼女の携帯画面に映っているだけでなんだか別の存在のように見える。

「え…。」

「妹子と付き合う前からずーっとこれ。」

パタンと携帯を閉じると目の前に彼女の笑顔。やっと合った目線がとても懐かしいものに見えて。

「僕、知らなかった。」

目線を一切反らさずにそう告げると彼女は声を出して笑った。

「そりゃそうでしょ。」

こんなにくだらないやり取りなのに、妹子の心は満たされていく。彼女の意識が携帯ではなく自分に向いているんだという事実が妹子にも笑顔を与えた。

「携帯ばっかでごめんね。」

彼女は申し訳なさそうに言う。しかし、妹子は首を横に振った。

「いいよ。そのお陰で良いこと知れたし。」

携帯にヤキモチを妬いた結果、その携帯に救われてしまった。なんだか不思議な感じであるが…。

「そのかわり次はないから。」

そう釘を指すと彼女は真剣な顔で頷き、そっと小指を差し出した。

「じゃあ、指切りする。」

彼女の小指に自分の小指を絡ませる。絡ませた指から伝わる体温が妙にくすぐったくて二人は微笑み合った。



















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ヤキモチと着信音/妹子
fin
2009.12.10
(2009.12.10〜2010.01.07)

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