初詣 「今年こそ馬鹿上司が真面目に仕事をしますように!」 祭壇で周りによく聞こえるように大きな声を出して神様にお願いをすれば、クスクスと笑い声が響く。 「ちょ…なまえ!」 「あと、彼氏が少しは頼りになる男になってくれますように!!」 私が神様と誰かさんに伝わるよう心を込めてお願い事をしていると、隣にいる太子は恥ずかしそうに私の口を閉じてくきた。私はそれを振り払って冷たい目線を送る。 「やめてください。」 女の私が睨んでも逃げ腰になってしまう、このチキン男は残念なことに自分の上司であり彼氏なのである。 「神様!どうか…!!」 「まったく、私はもう行くぞ!」 太子はそういうとプリプリ怒りながら祭壇からさっさと下りてしまった。 「あー、待ってくださいよ。太子は何かお願いしたんですか?」 慌ててもう一つのお願い事を済ませて太子の背中を追いかけたが、人の波が邪魔をして太子が遠くなっていく。 「た、太子…!」 太子に私の声が届かないのかどんどん進んでいく。手を伸ばそうとしたとき、誰かに押され私はその場に倒れてしまった。 「きゃっ…。」 ドスンと大きな音を立てて倒れれば、地面が近くなって手や足が痛くなる。危うく人にも踏まれてしまうところだった。 立ち上がって辺りを見回しても太子と思われる冠は見つからない。キョロキョロと辺りを見回していると再び誰かの肩がぶつかった。 「あ、すみません。」 一先ずこの人込みから抜け出そうと試みるが、小さな体ではもがくことは出来ても進むことが出来ない。 ―ここに来るときは、太子が手を引いてくれたんだ…。 人込みに逆らうことが出来ず再び祭壇に戻ってくると、そこには見慣れた後ろ姿があった。 「あ…。」 「お!なまえ。」 私を見て嬉しそうに笑う太子。思わず駆け寄ってしまう。 「見つかってよかった…。でも、どうしてまたここに?」 「ん?まぁ、そんなことはどうでもいい。行くぞ。」 太子はそういいながら私の手を引いて、人込みを掻き分けて行く。 「ちょっ…太子っ!?」 前を歩く太子の背中が大きくて不覚にも胸がときめいてしまう。痛いくらい強く握る手も男らしくてかっこよく見える。 気がつくと私一人では抜けられなかった人込みを抜けていた。 「ここまでくればもうなまえを見失わないだろ。」 太子はそう言うと私の手を解放してこちらを向いた。 なんとなく太子がかっこよくみえるのは不覚にもときめいてしまったせいなのか、神様が私の願いを聞いてくれたせいなのか。 「あ…ありがとう。」 「もっと感謝しんしゃい。もう少しで迷子になるところだったでおま。」 偉そうに腰に手をあてる姿も普段ならムカつくだけなのに、今はどことなく男らしくて。 「そうだよね…ごめん。ありがとう。」 「うん、うん。」 太子は頷きながら優しく私の頭を撫でてくれた。どうやら神様は本当に私の願いを叶えてくれたみたい。 「よし、行くか。」 太子はそう言うと、私の手を強く握った。 「うわっ、手汗すごっ!!」 さっきはまったく手汗なんてかいてなかったのに、その手はびっしょりと濡れている。 「ううううるさい!さっきはなまえがいないから、心配しすぎて緊張してたんだ!!」 「何よそれ意味わかんない。ああもう、離して!ぬるっとするよ。」 「今離したらまた迷子になるだろ。」 手汗のせいで、かっこよかった太子もいつもの太子にもと通り。握られた手を振り払うわけにもいかず大人しく私も太子の手を握りかえした。 来年は神様にかっこよさや頼りになるかよりも太子の手汗をどうにかしてもらおうと心に誓った。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 初詣/太子 fin 2009.01.11 |