繋がり 「いつも持ってるそれって何?」 閻魔はなまえのポケットから溢れているストラップを指差した。 ストラップを見るその目は興味に溢れた子どものように見える。なまえは慣れた手つきでストラップを引っ張りポケットから携帯を取り出した。 「これ?携帯電話。」 はい。と閻魔に渡すと閻魔は嬉しそうに携帯を開き、慣れない手でボタンをいじりだした。 「見ていいの?ありがとう。」 「どういたしまして。ていうか、今流行りのドラマは知ってるくせに携帯知らないんだ。」 早速携帯に夢中になってしまった閻魔に皮肉の言葉は届かない。それどころか「これはなに?」とか「なんか出てきた!」なんて言いながら容赦なく携帯をいじっている。 現世で生きて携帯に慣れたなまえにとってなんてこともない機能でも、天界に暮らす閻魔にとっては不思議な事らしい。 少年のように笑う閻魔になまえも頬が緩んだ。 「おっ、あった。」 「え、何?」 突然閻魔がうれしそうな声をあげるので彼女も携帯の画面を覗き込んだ。そこにうつしだされていたのは電話帳。 「ははぁ〜…なまえって友達いたんだ。」 スクロールさせながら閻魔はしみじみと呟く。 「あんた酷い事言うね。」 「いや、何となく。」 閻魔はギロっと睨むなまえから隠れるように背を向けた。 「あ、ちょっと。電話帳はいじらないでよ。」 プライベートよ、というなまえの言葉も虚しく閻魔は携帯の画面を眺め続ける。 そして、はぁ。とため息をついた。 「どうしたの?」 「んー。何でオレの名前がないのかなぁ…って。」 「何でって、閻魔は携帯持ってないじゃん。」 「うん。そうなんだけど。」 普段は気にならないのに閻魔がいじるボタンの音が妙に大きく聞こえる気がする。 「何て言うか、なまえ…友達、ていうか男友達多いみたいだし。」 「みんな友達よ、友達。」 なまえは閻魔から携帯を取り上げようとしたが、呆気なく阻止されてしまう。 携帯のかわりに閻魔の右手がなまえの右手に収まった。 「ただの友達?」 「そう、友達。」 「じゃあ、消してもいい?」 「いやいや。意味がわかりません。」 呆れてしまう位情けない顔をする閻魔。見ているなまえまで悲しくなる。 「私は閻魔が好きだよ。それだけじゃ駄目なの?」 「駄目…じゃない。でも、さ。」 再びため息をつくと視線を携帯に戻してしまう。ボタンの音がまた聞こえてきた。 「でも、何?」 「オレとなまえは生きる世界が違うから、繋ぐものって何もないし…。」 いつでもそばにいてほしいと思っているのに自分は閻魔大王、なまえは人間。寿命も生きる世界も全て違う。 押さえ付けられない“不安”という名の感情が胸を支配する。 こんな気持ちをなまえに伝えるにはどうしたらいいのか閻魔には皆目見当がつかなかった。 「だから、こういうの見ると不安になるんだよね。」 精一杯の笑顔で携帯をなまえの右手に納めれば、困ったように眉をひそめるなまえがいて。 「あ、いや。まぁ、しょうがないんだけどさ。」 なまえの悲しそうな顔から目を反らすために「さ、そろそろ戻ろうかな。」なんて言いながら立ち上がると、閻魔の右手に再び携帯が収まった。 「え?くれるの?」 冗談っぽく笑うと、なまえは首を縦に振った。 「閻魔が持ってて。私宛に何か連絡が来たら持ってきてよ。」 「なっ…冗談だよ。」 「いいから。私にはこれしかできないもん。」 なまえの真剣な瞳に閻魔の心に渦巻く感情が少しおさまったような気がする。 閻魔は嬉しそうに微笑むと、首を横に振って携帯をなまえに返した。 「ありがとう、なまえ。でも、やっぱりオレはこれを持っていけない。」 「だって…。」 「なまえのその気持ちだけで十分みたいだ。」 そういうとなまえをギュッと抱きしめて、暖かい体温を胸に閉じ込める。 「何それ。」 「だから、なまえの優しさだけで十分だって事。」 なまえの精一杯の優しさと温もりが閻魔の不安な気持ちを和らげていく。 「本当に?もう不安にならない??」 「うん。」 「よかった。」 嬉しそうに笑うなまえを強く抱きしめて、息を大きく吸い込めば肺いっぱいになまえの香が広がるような気がした。 「そのかわり、たまにでいいからこうして抱きしめてもいいかな。」 「ふふっ。毎日でもいいよ。」 なまえも閻魔を強く抱きしめて、お互いを繋ぐ機具がなくとも気持ちは繋がりあっているということを確かめ合った。 それからはブルブルとなまえの携帯が震えても、閻魔はそれほど不安な気持ちにはならなかった。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 繋がり/閻魔 fin 2010.01.05 |