蕾が開くまで 「なまえ」 道端でうずくまる少女に声をかけると、驚いたように顔をあげた。しかし、声の主の顔を見た途端、安心したのかいつものように優しい表情にかわる。 「なんだ、閻魔か。」 「なんだっていうなよ!ていうか、何してるの?」 閻魔もしゃがみ目線を合わせると目の前には一輪の花の蕾。 「花?変な形してるけど。」 「ううん、花の蕾。これから咲くの。」 一輪の蕾はそよ風に吹かれ心地良さそうに揺れる。閻魔はこの花の蕾を初めて見た。 隣に目をやるとその蕾を眺めながら嬉しそうに微笑んだなまえ。閻魔は蕾となまえを見比べみたがその微笑みのわけがわからない。 「蕾かぁ…なんか可愛い形してるな。で、蕾がどうかした?」 「んー、天国にはいつも花が咲いてるけど蕾を見たことなかったから。」 「まぁ、天国は死者を受け入れる場所だから生き物が生まれてくることないもんなぁ。」 「閻魔にも教えてあげたかったからここで待ってたの。」 なまえに目をやれば、先程まで蕾に向けられていた優しい微笑みが自分に向けられている。 「あ…。」 一瞬にして言葉と心を奪われた。 閻魔の心臓がドキドキと音を立てて動き全身に熱い血が巡る。 「閻魔に見せてあげられてよかった。」 なまえは再び蕾に目をやってしまったが、それでよかったと閻魔は心を撫で下ろす。何故なら閻魔自身でもわかるくらい顔が赤くなってしまった。 それをごまかすように蕾を指で触れればその勢いで二人の間で揺れる。その姿は今まで見たどんな花よりも綺麗だった。 「いつ頃咲くかな。」 「ん〜、いつだろう?こっちの花の事は詳しくないしなぁ。」 風が閻魔のかわりに蕾を揺らす。その揺れに合わせながら閻魔もゆらゆらと揺れた。 「じゃあ、オレ咲くまでここにいる。」 「えっ!仕事はいいんですか!?」 クスクス笑っていたなまえの顔が引き攣っている。以前見た閻魔と鬼男のやり取りを思い出しているのだ。 「なまえが鬼男君に言ってくれれば大丈夫だよ。」 「何で私が…。」 「だって、なまえと一緒にこの花が咲くところがみたいし。」 二人の間を一際強い風が吹き、今度はなまえの言葉が無くなった。徐々に赤く染まっていくなまえの顔を見て閻魔は嬉しそうに笑う。 「楽しみだなぁー。」 ご機嫌な閻魔の横でなまえは先程の閻魔のように蕾を指で突いて揺らす。そんな二人に見守られ蕾は迷惑そうに揺れた。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 蕾が開くまで/閻魔 fin 2009.12.26 |