温もり

なまえは寝返りをうった。これで何度目の寝返りだろう?いつもなら寝返りをうつ前に夢の世界へ落ちていけるのに今夜はいやに目が冴えている。
隣を見ると気持ち良さそうに眠る師匠の姿。規則的な寝息が聞こえてきてなんとも羨ましい。

「はぁ。」

のっそりと体を起こすと自分を包み込んでくれていた布団が肩から落ちていく。温かさに慣れた体はひやりとした空気に触れ鳥肌がたった。
温もりを求めて布団に戻ってもよかったが、今再び布団に横になってもどうせ眠れないだけだと考えて、なまえはゆっくりと腰をあげて芭蕉の眠る部屋から出ていった。

廊下は真っ暗で心細く、歩くたび闇に飲み込まれていくような錯覚に陥ってしまう。なまえは明かりを求めて歩いた。

―縁側…出てもかまわないかな。

静かに扉を開くと、月明かりで部屋の中より幾分か明るい。
なまえはそっと腰を降ろした。空を見上げると瞬く星と闇に慣れた目には眩しい月が浮かんでいる。

「きれい…。」

静かにしていようと思っていたのに気持ちが心を飛び出し声に変わってしまった。声は白い息に変わり闇に溶けていった。

「さむ。」

寝巻の恰好では冬の外気は刺さるようになまえの体を取り巻く。その寒さのせいで眠気も遠退いていた。

「なまえちゃん。」

声のする方を見るとそこには羽織りものをかけた芭蕉がいた。言葉と共に吐き出される白い息が寒さを強調しているように見える。

「こんなところで寒くない?」


「芭蕉さん…もしかして起こしちゃいました?」

「ううん。」

芭蕉はちょこんと隣に座ると先程のなまえのように空を見上げた。

「空気が澄んでるんだねぇ、とっても綺麗。」

ふふっ、と笑う芭蕉の横顔が月明かりに照らされて普段よりずっと優しく見える。なまえは隣に座った芭蕉にそっと寄り添った。
その姿は暖を求める子どものようで。

「ああ、やっぱり寒かったんでしょ。」

芭蕉はなまえの冷えた手をにぎりしめた。じわりと冷え切った肌に直接染みるように伝わる温かさ。
芭蕉の温かさを肌で感じただけで頭の芯がぼうっとする。忘れていた睡魔がなまえを包み込んでいた。

「芭蕉さん。」

肩に頭を預けると瞼が重くなって体中の力が抜けてくる。

「なまえちゃん、ここで寝ちゃダメだよ。」

「…寝てません。」

「目閉じてるよ、眠いんでしょ?」

「んーん。」

幼い子のように首を横に降れば芭蕉はクスリと笑う。

「しょうがないなぁ。」

芭蕉はそういうと、なまえを抱えて立ち上がる。昔のように抱き上げることは出来なかった。しかし体を支えながら歩き出せば、つられてよたよたと動くなまえの足。

「ほら、布団に戻ろう。」

「はぁい。」

芭蕉の言葉にコクリと首を縦に動かすと、眠たそうに目を擦りながら自分の足で歩き出す。でもその足取りはどこか頼りなく、芭蕉は導くようになまえの温かくなった手を引いた。

















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温もり/芭蕉
fin
2009.12.21

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