暇潰しから始まる

授業というのはなんてつまらないのだろう。
太子は教師に見えないように前の人に隠れて小さく欠伸をした。このまま眠ってしまいたいが、この授業の先生はネチネチとしつこいタイプで、眠っている人に当ててくる。

では、何か眠気から気を反らすものはないだろうか?
当然だが机の上を見ても教科書とノートと筆記用具しか見つからなかった。これでは眠気が倍になるだけで何も解決しない。どうしたものかと顔を上げると目の前で黒い艶やかな長い髪が揺れた。

―あ。

前に座っているのはひそかに思いを寄せるクラスメイトなまえ。
机と黒板を交互に見ているのか、ゆっくりと上下に動く髪。その動きはまるで自分を誘っているようで。太子はドキドキと胸を高鳴らせながら、そうっと髪を撫でてみた。

「…。」

どうやら触ったことに気付かれていないらしく、何も反応がない。ばれたらばれたで困るのだか、気付かれないというのも何故か淋しい。
こうなったらとことん触ってみようと、太子の好奇心が変な方向へ向かっていった。

まず、太子は髪を一束指に絡ませてみることにした。しかし、よく手入れされている髪は上手く指に巻くことが出来ずサラサラと零れ落ちてしまう。

―難しいな。

何度繰り返しても結果は同じ。まるで自分の気持ちがなまえに気付かれないのと同じように思えてきた。

―よし…これならどうだ。

先ほどより指に絡める髪の量を増やし、人差し指だけ出なく中指も使う。
ここまできたらどんな手を使っても指に髪を絡ませてやる。太子がそう決めた瞬間授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。

「痛っ…」

予想外の出来事に思わず指に持っていた髪を強く引っ張ってしまった。

「すまん!」

授業後の挨拶も程々に済ませて、なまえに謝ると軽く頭を叩かれてしまった。

「馬鹿、太子みたいにハゲたらどう責任とってくれるのよ。」

「ちょっ、私はハゲてるのではなくて刈り上げてるんだ!」

「同じ事です。」

よほど痛かったのかなまえの目には涙が浮かんでいる。髪は女の命ともいうし…太子の胸に罪悪感が浮かんだ。

「よし。なまえがハゲたら責任をとって私の嫁にしやろう。」

笑顔でなまえの肩を叩けば、彼女の顔がみるみる赤く染まった。

「ば、馬鹿太子!」

耳がキーンと鳴り響くほどの大きな声が教室に響いた。
その声に誘われたクラスメイト達が二人のやり取りを注目している。

「さっきから馬鹿馬鹿言って…私は真面目だぞ!!」

周りが何か騒がしいがもうどうだっていい。太子はなまえの肩に置いた手に力を入れた。

「ていうか、なまえがハゲなくても私の嫁にしてやる!」

太子がそう言い切るとクラスから歓声があがった。しかし、なまえは太子の鳩尾に重い一発を喰らわせる。

「おぶっ。」

そのままひざまづいて見上げると首まで真っ赤に染まったなまえと目があった。

「何故鳩尾に…」

「こんなとこで告白なんてするからでしょーが!!」

何もかもが唐突過ぎて感情を制御できなくなったなまえは太子と同じように屈み「馬鹿、ハゲっ!」と思い浮かぶかぎりの悪態をつきながら太子の胸をポカポカと力無く叩き、涙を流す。
騒がしかった教室が静まり返り、なまえのしゃくりあげる声が響いた。

「すまん。」

どうしていいのかわからずなまえを胸に引き寄せれば、甘い香が鼻を掠める。再び周りが煩くなったが太子は気にせず腕を背中に回し強く抱きしめた。

「泣き止んでくれよ。」

背中を撫でると指に当たるサラサラの髪の毛。これが原因で始まったこの騒ぎ。

「なぁ、なまえ…。」

そっと顔を覗き込むとパチンと頬を叩かれた。

「んなっ!?」

「だ・か・ら。もっとシチュエーション考えろって言ってるの、馬鹿太子!」

そういうとなまえから太子の胸に顔を埋める。
その一連を見ていたクラスメイトはやってられるかといった顔をしながら次の授業の準備に取り掛かった。















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暇潰しから始まる/太子
fin
2009.12.16

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