北風と体温 冷たい風が吹いた。その風で銀杏や桜の葉が役目を終えてヒラヒラと地上へ舞い降りていく。 なんて儚い姿だろうと思い鬼男が眺めていると隣からうめき声が聞こえた。 「ううぅー。」 隣を見ると風から身を守るように猫背になったなまえの姿があって。 「なんてみっともない声を出してるんですか…。」 鬼男はそう言うとため息をついて笑った。 しかし、なまえはそんな鬼男を恨めしそうに見上げ頬を膨らます。 「鬼男は若いから基礎代謝が高いのよ。」 羨ましいなぁー、と言うと再び北風が吹きなまえは背中を丸めた。 「若いって…僕となまえさんそんなに歳変わらないじゃないですか。」 鬼男が呆れたように笑えば 「馬鹿、1〜2歳って結構違うもんなの。」 そう言い手を擦り合わせ息を吹き掛ける姿は仕事場では決して見られない。 自分だけが知っている恋人の姿に思わず笑顔が溢れ出す。 「何、ニヤニヤしてるのよ。」 噛み付くように言う姿すら愛おしい。鬼男はなまえを風から守るようにそっと抱きしめた。 「これなら寒くはないでしょ。」 じんわりと鬼男の体温が伝わり、震えていたなまえの体から力が抜けていく。 「ふふ、本当だ。暖かい。」 なまえはすっぽりと鬼男に包まれて幸せそうに笑った。 鬼男も自分の腕におさまっているなまえ体温を感じて寒い日も悪くないと心で笑った。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 北風と体温 fin 2009.12.04 |