魔法の解ける時間

冷たい空気が頬を撫でる。酔いが回り熱くなっているせいかその冷たさが心地良い。なまえは恋人の曽良に手を引かれ、うっとりとその冷えた空気を感じていた。

今日は芭蕉が弟子を集めて忘年会を行っていた。なまえは弟子では無かったが、曽良を通じて親交があったためこうして参加をしたのである。
しかし、夜も更け終電も近づいたため曽良に駅まで送ってもらっていた。

「なまえ。」

お酒が入りいつもより血色の良い恋人はなんだか色っぽく見える。そんな曽良に話し掛けられてなまえはドキリとした。

「な…なんですか?」

「貴女の乗る電車は何時なんですか?」

普段なら遠く感じる道程だったがもう駅に到着する。なまえは時計を確認した。

「ちょうど0時です。」

長針はもうじき0時を指す。あと少しで曽良と離れないといけない、そう思うと胸が締め付けられた。
そんななまえを見て曽良はふっと口角をあげる。

「0時には帰らないといけないなんてまるでシンデレラですね。」

まさか曽良の口から童話の名前を聞くとは思わなかった。時計から目を離し見慣れない曽良の笑顔に見とれていると発車を告げる放送が鳴り響く。

「ここまでありがとうございました。」

なまえは慌てて曽良に御礼を言ってホームに向かおうとすると、曽良は繋いでいた手を強くにぎりしめた。

「痛…!」

あまりの痛さに足をとめると再び曽良と向き合わされ、少し眠たそうな瞳で見つめられた。

「なまえは知りませんか?シンデレラ。」

まるで放送が聞こえないかのように曽良はなまえに問う。

「知ってますけど、電車が…。」
なまえが困ったように見つめ返すと曽良は強く握っていた手を引きなまえを抱きしめた。

「0時になったらなまえの魔法も解けてしまうのですか??」

「何を…」

突然の出来事に体を固くすると耳元でそっと曽良が囁いた。

「僕は構いませんよ、なまえの魔法が解けたとしても。」

遠くで電車が走り去る音がする。なまえは諦めて曽良の背中に腕を回した。

「曽良君…もしかして酔ってます?」

珍しいこともあるんですね、となまえが笑うと曽良は一層腕に力を入れる。

「いいえ、今日は元から帰すつもりはありませんでした。」

そう言うと彼女から離れ、再び手を繋ぎ直すと慣れたように曽良の家に向かって歩きだした。




















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魔法の解ける時間/曽良
fin
2009.12.03

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