深夜の訪問者

ピンポンと短くチャイムが鳴り響く。こんな遅くに来る人物といえば限られている。芭蕉は急ぎ足で玄関に向かった。

「はーい」

一応扉の向こうの人物を確かめるために声をあげれば、その声に反応して返事が戻ってくる。予想通りの人物であったが、今日の返事は何とも情けない声だった。

「芭蕉さぁん…。」

泣いているのだろうか?芭蕉は慌てて扉を開くと、そこにはノートパソコンと沢山の本を抱えたなまえが立っていた。

「なまえちゃん?」

「終電逃したし、レポートが終わんない…。」

温かい部屋と電気を貸してくださいとなまえは申し訳なさそうに呟く。
学生は大変だねと芭蕉は笑いながらなまえを部屋に招き入れた。
なまえは家に入ると慣れたように火燵のある部屋まで歩きだした。

「火燵よりヒーターの方がいいんじゃない?」

芭蕉はなまえを呼び止める。
どこで課題をしても構わないが以前同じようなことがあったときに火燵で眠ってしまったなまえの姿を思い出していた。

「あう…だっておこたが。」

「火燵は課題が終わってからにすればいいでしょ。」

なまえの手を引き普段自分が使っている机に案内して、ヒーターをつければ眠っていた部屋に暖かい空気が広がる。

「何か必要な資料とかある?」

なまえの持ってきた資料をめくりながら芭蕉は微笑んだ。

「大丈夫です。今日は全部資料を持ってきました!!芭蕉さんは休んでいてください。」

ノートパソコンの電源を付け、自信たっぷりに笑い返すなまえは普段よりもずっとやつれていて。
芭蕉はなまえの役に立ちたいと思ったが、それではなまえの将来に繋がらない。

‘いつか芭蕉さんみたいな古典の研究者になる!’

自分に憧れて目を輝かせていたなまえの夢を自分の手で踏みにじるのは心苦しい。
甘やかせてしまいそうな自分をグッと押さえ付けて芭蕉は今の自分に出来る最善の方法を探した。

「それじゃ、布団を用意してあげるから終わったらおいで。」

なまえの頭を撫でておやすみと囁けば彼女は嬉しそうに目を細めた。

「ありがとうございます。」

名残惜しいがそっとなまえから離れ、風邪をひかないよう室温を調整してから部屋を出て寝室に向かう。
おそらく明日の朝、なまえは自分の用意する布団には来ないだろう。そうわかっていてもなまえ用の可愛らしい柄の入った布団を用意した。

「ちゃんと課題が終わればいいけど…。」

布団に入り耳を澄ませばキーボードを叩く音が聞こえる。
芭蕉は目をとじてなまえの課題が早く終わるよう祈りながら眠りについた。

















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深夜の訪問者/芭蕉
2009.11.27

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