友達以上恋人未満の悩み

妹子に女の子からの手紙が届いた。
放課後に屋上に来て欲しい、と可愛らしい女の子特有の文字で書いてあって。
妹子はせっかく貰ったラブレターを惜し気もなく私に見せてくる。

「何よ。自分はモテますって自慢ですか、妹子くん。」

私と妹子はただの悪友というか、そういう感じで。
それで良いと思ってた。

「別に。ていうか、なまえが見たいって言うから…」

ぷいっとそっぽを向いた妹子の茶色い髪が太陽の光を浴びてきらりと光る。
妹子の髪は綺麗だと思う。

「馬鹿。そういうのは隠しておきなよ。」

手紙を返し、「モテる人は余裕ですね。」なんて憎まれ口を叩けば、妹子は冷たい目で私を睨んでくる。

「違うよ。」

いつもはもっと言い返してくるくせに妹子はこれ以上口を開かなかった。

「ねぇ、それに行くの?」

今までは、悪友で良いと思ってた。

「んー…、うん。そうだね。」

素直になれなくても。

「そっ、か…。」

私が一番妹子と仲が良い友達だから。

「…。」

ずっとこんな関係が私たちは続くと思ってた。
でも、違ったんだ。
じっと手紙を見つめる妹子は私の視線には気がつかない。

「ねぇ、妹子。」

もしも、今。

「なに?」

もしも、私が素直になれたら。
妹子は私と一緒にいてくれる?

「…。」

今の関係が壊れて、私の気持ちを拒否されたら…。そう考えると言葉が喉につっかえて声にならない。
妹子は私の様子を不思議そうな顔をして見ていた。


苦しくてしょうがないの。
貴方が他の人と笑いあうなんて。
貴方が好きなの。
私のこと好きになってよ。


頭の中には妹子に伝えたい言葉が溢れていた。
でも、口から出てきたのは短くて可愛いげのない一言。

「…行かないでよ。」

妹子は目を大きく開き、私をずっと見つめて、口はぱくぱくと動いていたが、言葉は無かった。

「行っちゃ嫌だ。」

スカートをグッとにぎりしめて、震える声で妹子に言葉を伝える。
すると、妹子はきつく握られた私の手に自分の手を重ねた。

「妹子?」

顔から火が出るかと思うくらい熱くなる。
今までハイタッチとかはあったけど、こんな風に妹子に触れたことなかったから。

「やっと言ってくれた。」

一瞬、ニヤリと妹子が笑ったように見えた。
でも、今度は私の目が大きく開き口を開けたまま閉められなくなってしまった。
思考回路が完全に停止してる。

「ねぇ、なまえ。なんで僕がこの手紙の人のところに行くのは嫌なの?」

じっと優しい目を私に向ける妹子。
こいつ、気付いていたんだ。

「ば…馬鹿!」

恥ずかしくて妹子の手を振り払おうと、気がつけば妹子は私の手を握りしめていて振り払えなかった。

「〜っ!」

「どうしてか言ってくれたら放してあげる。」

明らかにニヤニヤと笑う妹子。こいつ、こんな顔するんだ、なんて冷静に妹子を観察している自分がいて。

「ね、どうして。」

妹子の声が嫌に優しいから耳が熱くなる。妹子の目が私を捕らえて放さないから私の目は妹子から動かせない。
頭の中がごちゃごちゃしてパンクしてしまいそうだ、そう思ったとき冷静ではない方の私は操られるように口を開いてしまった。

「妹子が、好き…だか、ら。」

全部言い終わる前に妹子は私の手を引き、私は妹子の胸にすっぽりとおさまった。
混乱する私を落ち着かせるために背中を数回撫でる妹子の手は温かくて。

「知ってるよ。」

耳元から聞こえる妹子の声は凄く心地よくて心臓がぴくりと動いた。

「僕もなまえの事が好きだから。」

こんな風にされて悔しいはずなのに嬉しくて涙が溢れる。私の頭はおかしくなってしまったのかもしれない。

「なまえだけを見てたから。」

より一層強く抱きしめられて、少し苦しかった。でも近づいた事で妹子の心臓が早く動いてるって事がわかって凄く安心して。

「…妹子。」

「なに?」

泣いたせいで声が変だったけど、そんなことどうでもいいや。

「妹子の隣が私でもいいの?」

少しだけ妹子の答えが怖くて、彼の服にしがみついた。
すると妹子は呆れたように笑う。そして、今日一番私を強く抱きしめて耳に触れるか触れないかの場所でそっと囁いた。

















「なまえ以外なんて有り得ない。」

















‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

友達以上恋人未満の悩み/妹子
fin
2009.11.20

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -