死の淵にて

夢を見た。
いや、夢じゃなかったのかもしれない、けど私は眠っていた。

目の前に現れた男は、私の知らない人だったが、私は何故か彼を知っていて。
私が起き上がろうとすると、彼は首を横に振り優しく私の額の汗を拭ってくれた。

「辛そうだね、なまえ。」

心配そうに覗き込む彼の目はとても優しくて、懐かしかった。

「辛いよ、でももう少しで貴方に会えるから、大丈夫。」

口から出て来た言葉は私の言葉では無かったけど、私もどこかでそう思っていたような気がする。
でも、目の前にいる男は再び首を横に振った。

「まだ駄目。オレのところに来るのはまだ早いよ。」

そういう彼の目は少し淋しそうで、私の胸はチクりと痛んだ。
彼は私の頭を大きな手で優しく撫でてくれた。撫でられるたび瞼が重くなる。
いけない、そう思った私は殆ど動かない唇を動かした。

「でも、私、貴方に早く…逢いたい、よ。」

ああ、駄目だ。少しずつ意識が遠退いていく。

「オレも早くなまえに逢いたい。でも…もう少し頑張れ。」

そういうと彼は私にキスをした。
懐かしい、そう感じさせるキスを最後に私の意識は途切れてしまった。



















「閻魔…。」



















目を覚ますといつもの天井があった。私は全身に汗をかいていて節々が痛む。
ぼんやりとする頭で先ほど彼が撫でてくれた頭に触れれば、なんとなくまだ彼の温もりが残っているような気がした。
しかし、もう一度彼の名前を呼ぼうとしてもその言葉は喉につっかえて出て来る事は無かった。













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死の淵にて/閻魔
fin
2009.11.16

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