カレーとハーブの香り

「無理、もう食べられない…!」

そういってなまえは火燵に足を延ばし横になった。部屋にはカレーのニオイが充満している。

「なっ、なまえが沢山食べるって言うからいっぱい用意したんだぞ!!」

なまえの向かい側に座る太子は口に食べ物を入れながら喋るのでテーブルにご飯粒が飛ぶ。

「いいじゃん、カレーは一晩寝かせた方が美味いって言うし…。」

なまえは怠そうに手だけをテーブルの上に出し、太子に答えるようにプラプラと動かした。
それを見て太子は「もう知らん!」と言いながら再びカレーににがっついた。

―まさか、こっちの時代に来てカレーが食べられるとは思わなかったなぁ…。

なまえは天井を眺めた。冗談みたいな話だが、ここは自分が生まれた時代ではない。
淋しくない。と言えば嘘になるが、最近は何故かこの時代は自分に合っているような気がしてきた。
それは妹子やフィッシュ竹中、そして太子がいつでもなまえの傍にいてくれるお陰でもあるのだが。

「ねぇ、太子ー。」

なまえは再び腕を天井に向けて延ばし、自分の向かい側にいるであろう男に見えるように手を揺らした。

「…。」

普段ならすぐに返事が返ってくるというのに、うんともすんとも返事がない。
変に思ったなまえがゆっくりと体をあげると、向かい側にいたはずの太子の姿は無くなっていた。

「太子?」

よく見ると自分と太子の分の皿が片付けられている。なまえは彼が片付けてくれたことに気付き姿は見えないが、座ったまま台所に向かって御礼を言った。
それから暫くしても返事もなかったので、戻ってくるまで横になっていようと再び床に横になると、先ほどまで探していた男が横になっていた。

「わぁ!?」

びっくりして体を火燵から離すが、太子はなまえの手を引っ張り、結局横になってしまった。

「びっくりしただろ。」

引っ張られた衝撃で軽く頭を床に打ち付けたなまえは恨めしそうにニヤニヤと笑う太子を見つめた。

「気配消さないでよ…。」

もう…。とため息をつけば太子は嬉しそうに笑う。
そして、太子は体を起こしなまえの顔を覗き込むように上から眺めた。

「なぁに?」

なまえは右手で太子の頬をそっと撫でる。

「なぁ、なまえ。」

太子もなまえと同じように右手で彼女の頬に触れた。

「何ってば。」

焦れったい太子に噛み付くように答えれば、モジモジと動き出す。

「その…キッスしてもいいか?」

太子が呟くと、なまえはキョトンとした目で太子を見つめ、そして、にっこりと微笑んだ。

「い・や。」

答えると同時に撫でていた頬を思い切り抓ってやった。

「いでででっ!何で!!」

「だって、太子口臭凄いんでしょ?」

妹子が言ってたよ、と付け加えれば太子は涙目になる。
そんな太子の顔を見てちょっと言い過ぎたかな?と思い謝ろうと口を開くと、彼女の下唇に太子の唇がそっと触れた。

「っ!」

驚いてなまえが怯むと、それをいいことに太子は彼女の唇を塞ぎ舌をねじ込んだ。

「んんっ、んむっ…!」

なまえは目を閉じて、太子の胸を二三回叩いたがびくともしない。
なまえは徐々に何も考えられなくなり、太子の青いジャージにしがみつくように手を添えた。

「はっ、…っ。」

太子が唇を離すとなまえは潤んだ目で太子を見上げた。

「なまえ…。」

太子は優しくなまえの頭を撫でた。
するとなまえの肩が震える。泣かせてしまったのかと思い彼女の顔を覗き込むと、パチンと顔面を叩かれた。
そして、なまえは笑い出した。

「あはっ、太子…あんた…!!」

太子は叩かれた顔を抑えなまえを睨んだ。
その視線に気付いた彼女は笑いすぎて溢れた涙を拭う。

「ごめっ…だって!太子…歯、磨いたんだね。」

ゲラゲラ笑うなまえは終いには腹を抱え込む。

「マナーだろ、おまっ!!」

太子は耳まで真っ赤に染めて言った。

「だって、ハーブの香りなんだもん!!」

あはは、と笑いながらなまえは起き上がり、そっと太子に抱き着いた。
そして真っ赤に染まった耳に優しく呟く。

「ありがとう、太子。」

なまえがそういうと太子もなまえを強く抱きしめ、本日二度めのキスをした。












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カレーとハーブの香り/太子
fin
2009.11.16

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