思いがけないハプニング

ぽかぽかと日差しが心地よい。
私は小さく欠伸をして縁側を歩いていた。
すると、むにゅっと生暖かい何かを踏んでしまった。

「ひぇぇ!」

慌てて足元を確認すると、そこにあったのは人の足。
この家にいるのは自分となまえちゃんのみ。
一瞬ひやりとしたが、勇気を持って恐る恐る足の持ち主を確認すると、そこにいたのは死んだように眠るなまえちゃんだった。
ほっと胸を撫で下ろし、なまえにちゃんごめんね、と謝っておいた。

しかし、足を踏まれたのに起きないなんて何事だろう。
まさか何か病気だろうか、それとも転んで頭をぶつけたのだろうか?
昔からそそっかしい子だったから後者は有り得る、そう考えなまえちゃんの肩を2、3回揺り動かした。

「………。」

しかし何の反応もない。
次第に血の気が引いていくのがわかる。

「…なまえちゃん!?」

なまえちゃんの上半身だけを抱き大きく揺らした。
すると、彼女は少し顔を歪ませた。

「ん…。」

どうやらはやとちりだったようで、耳をすませば規則的な寝息が聞こえる。
ほっと胸を撫で下ろすが、何故こんなところに?
首を傾げ辺りを見回せば床に筆とノートがあり、俳句を作っていたように見える。
俳句を作っている最中に眠くなってしまったのだろう。

「どんな俳句ができたのかな?」

無造作に置いてあるなまえちゃんのノート。
いつも私に見せてくれるノートと柄が違うような気がするけど、そっと表紙を開いた。

「…。」

最初のページには何も書いてなかったけど、次のページから文字が沢山書いてある。
女の子特有の可愛らしい文字。
しかし、そこに書いてあったのは俳句ではなく…

「ちょっ、芭蕉さん!それ私のっ!!」

なまえちゃんの声が聞こえたときにはもう遅く、私は彼女のビンタを左から受けた。

「へぶっ!!」

顔を真っ赤にしてノートを抱き抱えるなまえちゃん。

「ど…どこまで見ましたか!?」

涙目で床に転がる私を見つめ、ふるふると肩を震わせている姿は犬のようだ。

「最初のほう…だけだよ。」

叩かれた左の頬を抑えゆっくりと身体をあげると、なまえちゃんは私の身体を支えてくれた。

「ああ、ありがとう。」

ん?ありがとうは変なのか??

「いえ、私こそ勢い余ってひっぱたいてごめんなさい。」

曽良君といい、どうも私の弟子達はすぐ(私に)手を上げる癖があるような気がする…。

「いいんだよ。まさか日記がこんなところに転がってるとは思わなくってね。」

ハハハ、と笑ってみせた。
するとなまえちゃんは必死な目で私を見つめて言った。

「あのっ、今見た内容は全部…忘れてください。」

あまりにも必死だったので、その勢いに負けて首を縦に振るとなまえちゃんはノートと筆を持って奥の部屋へ入っていった。

なまえちゃんがいなくなった居間は静まり返り、私は彼女の入った部屋を見つめて思わず頬が緩んだ。
あの日記に書いてあったのは、所謂恋文というやつで、なまえちゃんから私への気持ちが書いてあった。
思いは通じ合っているとはいえ、改めてなまえちゃんの気持ちを文字にしてみるとより愛されているという実感が沸く。

私はにやける顔を抑え、なまえちゃんのいる部屋の襖を開ける。
なまえちゃんに私の思いもちゃんと伝えてあげよう。


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思いがけないハプニング/芭蕉
fin
2009.11.10

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