秋雨 サアサア サアサア 紅葉が綺麗に色づき始めたというのに、雨が降る。なまえは縁側に座りながらノートと筆を持ち雨を眺めた。 本当は芭蕉と一緒に川沿いの紅葉を見に行くはずだったのに。 久々に師である芭蕉の句が聞けるはずだったのに。 芭蕉と二人きりで遠出なんて滅多に出来ないのに。 なまえは雨を眺めながら小さくため息をついた。 「何かいい句は浮かんだ?」 声のする方に顔を向けると、カチャカチャと二人分のお茶をお盆に乗せた芭蕉がやってきた。 「あ、お茶でしたら私が入れたのに。」 すみません、と謝るなまえを見て芭蕉は笑う。 「ううん、なまえちゃん頑張ってるからね。」 そういうと芭蕉は隣に腰を下ろした。 「で、何か浮かんだの?」 ひょいっとノートを芭蕉覗き込むと、そこには大きく“雨の馬鹿”と書かれていた。 なまえは恥ずかしそうに俯く。 「だって…久し振りに芭蕉さんと遠出出来ると思ったんだもん。」 芭蕉は驚いた顔をしたが、すぐに顔を緩ませなまえの頭を優しく撫でてやった。 「うん、そうだね。」 雨はよりいっそう強くなるばかりで、家にある色づき始めた紅葉が雨に打たれてゆらりと揺れた。彼女は芭蕉に頭を撫でられながら空を見上げる。 「芭蕉さん、次のお休みの日こそ紅葉狩りしましょう。」 また暫くは勉強会や何かで忙しくなる。もしかしたら次の休みには紅葉は散ってしまっているかもしれない。 それでも、そう言ってくれるなまえが恋しくて、愛おしくて。 芭蕉は優しく笑った。 「うん、絶対に行こう。」 なまえも芭蕉の笑顔につられてにっこりと笑う。 そして、なまえは芭蕉の手をにぎりしめた。 「なあに?どしたの。」 芭蕉は照れ臭くて、思わず手を引っ込めてしまった。 「今日は雨狩りです。」 手を引っ込まれてふて腐れたなまえは逆に芭蕉に手を差し出す。 「ちゃんとエスコートしてくださいね。」 目の前の可愛らしい手となまえの真っすぐな目を交互に見て、芭蕉は恥ずかしそうに笑う。 そして、その手に自分の手を重ね強くにぎりしめた。 「紅葉狩りのときもこうやってくれなきゃ嫌ですから。」 なまえは耳まで真っ赤に染めながら言うもんだから、芭蕉はくすぐったくて空いている手で頬をかいた。 「約束するよ。」 サアサアと雨は休む事なく降り続き、二人は手を繋ぎながら雨を楽しんだ。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 芭蕉/秋雨 fin 2009.11.02 |