後悔の花

どぉん

打ち上げ花火が咲く。
闇に一瞬咲き誇った後すぐに消えていった。
あの時も見た花火。
何年前だったのか、もう覚えてないけどあれが私の初デートだった。
恋人としてではなかったけど、好きな人と初めてお祭りに行った夜。

「ねぇ、小野くん…待ってよ」

普段彼は意地悪でもなんでもなかったけど、この日は意地悪だった。
私に背を向けてずんずん人込みを掻き分けて歩く。
幾ら声をかけても彼は振り向いてくれなかった。
茶色の柔らかな髪が私を誘うように揺れるけれど決して届かない。
少しずつ離れていく背中に不安が募る。
なにか気に障ることをしたのかもしれないとか、本当は私と一緒に来たくなかったのかもしれないとかそんな負の感情。

「妹子くん…!」

私が最後の勇気を振り絞って彼の名前を読んだ瞬間大きな音と共に花火が咲いた。
私の勇気を掻き消すように。

「……っ」

もう私は泣き出す一歩手前だった。
離れたくなくて夢中で動かしていた足も少しずつとまっていく。
遠くなる背中は知らない人のようだった。
教室で私に笑いかけてくれる彼の背中ではなかった。

「妹子ぉ……」

私の足は完全に止まり溢れ出す涙を隠すために両手で顔を覆う。
他の人の視線なんて忘れて私は泣いた。
彼を誘った後悔と明日からもう彼と一緒に笑い合うことができないのではないかという不安に押し潰されて。


どぉん


遠くで再び花火が咲く。
私の目には届かない。


















「なんてこともあったね」

私が言うと、隣にいる彼が苦虫を潰したような顔をする。

「あ、あれは………」

「緊張してた、でしょ?」

バツが悪そうに視線を泳がせた彼は私の手をにぎりしめて言う。

「本当にごめん」

「ふふふ、いいの。ただ思い出しちゃっただけ。」

あれから色んなことがあったけどこうやって再び花火を見に行く仲になった。
今度は恋人となって。

「好きだったんだ、あの時も今も。」

彼は言う。
言い訳みたいだけど、なんて困った顔をしながら。

「だからどんな顔をしていいのかわからなかった。」

真っ直ぐ私に視線を送る彼。
あの夜見ることのできなかった愛おしい人の視線に胸が熱くなる。

「…妹子」

そう名を呼ぼうとした瞬間、遠くで聞こえた爆発音と光。
あの日から後悔と嫌な記憶を思い出させるだけのものだった。

「でも、今は違う。こうして隣で笑って見られる。」

眩しいくらいの光が彼の背中で咲いた。

「あの夜はごめん。誘ってくれて嬉しかったんだ、ありがとう。」

笑う彼と闇に消える花火が瞳に焼き付けられる。
その美しさに涙が溢れてきたけど、あの日のように両手で隠す必要はなかった。

















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後悔の花/妹子(現代)
fin
2012.10.08

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