愛の誓い

遠くも近くもない昔、補習だの居残り勉強だの様々な理由を付けて何度もおしかけた愛しい人の部屋が今日はいつもと違う人の部屋に見える。
それは私があの頃より大人になったからなのか、それとも私たちの関係が変わったからなのかわからない。
でも、確かに昨日までよりずっとこの部屋にいることがくすぐったくて緊張してしまっている。

「どうしたの?」

芭蕉先生…基、私の恋人である芭蕉さんは優しく微笑んで私の顔を覗き込んだ。
昨日よりも嬉しそうで、昨日よりもずっと幸せそうに見える。

「ううん、なんでもない、です。」

私は何度も首を横に振った。
そんな私をみて不思議そうに小首をかく芭蕉さんはおっさんなのにおっさんに見えない。

「ねぇ、芭蕉さん。」

「ん?」

「私たち…これから二人で仲良くやっていけるかなあ」

ふと口をついて出た言葉。
別に意識していったわけではないけれど、心に潜む不安が形となって出て来てしまった。
そんな私を見て芭蕉さんは驚いたように目を見開いている。
恥ずかしくなって柄にもなく俯いてしまった。

「うん…どうだろう。」

予想外の一言に頭をあげると少し難しそうな表情をした芭蕉さん。
急に潜んでいたはずの不安が胸を覆っていくような気がした。
きっと嘘でも「やっていけるよ」と言ってほしかったんだと思う。

「なんで?」

無意識に刺の立つ言葉が芭蕉さんに向かう。
そんな私の言葉を聞いてるのか聞いていないのか表情はそのまま口を開いた。

「私は未来が見えるわけじゃない。なまえちゃんが私以外の男に興味を持たないとも言い切れないでしょ?」

まるで私が芭蕉さんを捨てるような言い方にカチンときた。
言い返そうと口を開くけど、その前に芭蕉さんが言葉を紡いだ。

「でも、そんな理屈抜きにして私はなまえちゃんを大切にしたいと思ってるよ」

目を細めて笑う芭蕉さん。
今まで見てきた芭蕉先生とは違う表情。

「あ……」

「だから、一緒にいてみようよ。もしかしたら、駄目かもしれない。でも、仲良くやっていけるかもしれないでしょ。」

「……うん。」

ありがとう、その言葉の代わりに芭蕉さんの手をにぎりしめた。


















喧嘩もするかもしれない、幸せを分け合えるかもしれない、私たちの未来はまだ始まったばかりだから一緒に確かめよう。

















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芭蕉/愛の誓い
fin
2012.09.25

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