忘れ物

「忘れ物は無い?」

なまえが居間を覗き込むと、本を読んでいた鬼男が顔をあげた。

「はい、僕は準備が出来ています。」

困ったように笑う鬼男を見てなまえは微笑んだ。

「ごめんね、お待たせ。さあ、行こう。」

近くに置いてあったかばんを手に取り靴を履く。
先になまえの方が靴を履いていたはずなのに気がつくともう鬼男に追い抜かれている。
鬼男はなまえが靴を履いている合間に部屋の鍵を取り出した。

「鬼男は手際がいいね。」

「そうですか?」

「私なんかよりずっといいわ。」

そんなやり取りをしながら戸を開く。
玄関の鍵を閉めて二人は顔を見合わせた。

「さ、今日は何処へ行こうか。」

「そろそろ昼時ですからね。」

「じゃ、先ずはお昼ご飯から…あ!」

アパートの階段で下へ向かう途中なまえが立ち止まった。

「どうしましたか?」

「ごめん、忘れ物!先に下りてて。」

なまえはそういうと階段を駆け登る。
なまえの後ろ姿をみて鬼男は困ったように笑った。

「あぶない、あぶない」

急いで階段を登り扉を開くためにかばんの中に手を入れ探る。
しかし、いつも鍵を入れているはずのポケットに鍵は見当たらない。
なまえは首を傾げてかばんを覗き込み、丁寧に中を探ってみた。

「うそ…鍵も忘れた?」

慌てて鬼男のいる下まで向かおうと振り向くとそこに鬼男が立っている。

「はい、どうぞ。」

鬼男はそういうとなまえの隣に立ち鍵を開ける。

「あ…ありがと。」

「どういたしまして。」

なまえは鬼男に礼をいうと慌てて部屋へ駆け込み忘れたものを探す。
そのついでに机の上に置きっぱなしになっていた鍵をかばんに押し込んだ。

「あ、鬼男お待たせ…!」

息を切らして靴を履くなまえを見て、鬼男はにっこりと笑うとなまえの腰に腕を回して囁いた。

「次は僕でも待てませんよ?」

「ご、ごめ…」

「さあ、行きましょう。今日は中華でも食べませんか?」

そういって鬼男はなまえの手を引いて歩きだす。
それはよく晴れた日の出来事。


















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忘れ物/鬼男(現代)
fin
2012.03.18

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