指輪

キィン
静かな部屋に金属音が響き渡る。
鬼男は仕事を止めて顔をあげた。
振り向くと落としたであろう女性がコロコロと転がるものを追い掛けている。
彼女が追いかけていた物は鬼男の足にぶつかって止まった。
鬼男は無言で拾いあげる。

「あ、ごめん。」

「いいえ。」

拾ったのは小さな指輪。鬼男の掌の指輪は電気の光に反射してささやかに輝く。
シンプルだが趣味の良さを伺える指輪だ。

「いいデザインですね。」

鬼男はそういうと指先で指輪をつまみなまえの目の前に曝す。

「ありがと。」

指輪を褒められて嬉しそうに頬を染めるなまえ。
鬼男は極力その表情を見ないように努めた。

「でも、あいつ馬鹿なのよ。」

「何がですか?」

なまえの予想外の一言に鬼男が応えると。

「記念日だからーって張り切ってプレゼントしてくれたんだけど、サイズ…合ってないの」。

ホント馬鹿、なんて言っているが心からそのプレゼントが嬉しかったと言わんばかりの表情。
鬼男は心臓を槍で貫かれたような錯覚に陥ってしまう。

「そうなんですか?」

「そうなのよ、貸して。」

返却して欲しいという意味で左手を差し出したなまえ。
しかし鬼男は無言のままその手を掴んだ。

「鬼…男?」

なまえの不安そうな声を無視して、鬼男は持っていた指輪を彼女の薬指にはめこんだ。

「………鬼…」

鬼男が静かに指輪から指を離すと、細くて白い指から滑り落ちてくる。

「…本当だ。」

ふふふ、と笑うとなまえは一瞬目を見開いて驚いた表情をしたが、鬼男に合わせるように無理矢理笑った。

「…ね?でしょ。」

「閻魔さんらしいです。僕なら……」

鬼男はそう言いながらなまえの手の強く握った。

「鬼男?」

何か言いたそうな彼女の視線を無視して鬼男は続ける。

「僕ならなまえさんにピッタリの指輪をプレゼントするのに。」

「………え?」

「…………………。」

沈黙の後、鬼男は顔をあげて笑う。

「冗談ですよ。さあ、仕事に戻りましょう。」

瞳をパチパチさせる彼女にもう一度微笑みかけて、鬼男は背を向けた。


















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指輪/鬼男(現代)
fin
2012.1.12

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