当たり前

私が手を伸ばせば、当たり前のように私の掌より大きな手が私を包む。
私が微笑めば、当たり前のように頬を赤く染めて私よりも幸せそうに笑う。
私が泣けば、私よりも辛そうな表情で私を守ってくれる。
私が目を閉じれば遠慮しがちな唇が私の額に落ちてくる。

「私にとって鬼男を好きになるのって、呼吸をするのと同じくらいのことみたい。」

鬼男の腕に抱かれて私はそう囁いた。
肌にぴったりくっついているので彼の心臓の音が直接耳に響いてくる。

「何ですか、それ。」

少しだけ目を見開いて私に視線を送る彼の頬は予想通り赤い。
ただでさえ色濃い彼の肌は更に濃くなったように感じる。

「当たり前ってこと。」

私も鬼男に視線を送ると、鬼男は少しだけ視線を泳がせた。
どんなに時間が経っても、どんなに肌を重ねても、彼は私に慣れてくれない。

「たまに…存在を忘れてしまいそうになるけど、無くなったら苦しくて死んでしまうわ。」

「…なまえさんは忘れそうになるんですか、僕のこと。」

怒っているのか困っているのかわからないけど、鬼男は眉をひそめる。
私は珍しい表情を見て思わず笑ってしまった。

「ふふっ、たまーに仕事が忙しくなると、ね。」

ご機嫌をとるように頬を胸に擦り寄せると、よりいっそう彼の心音が速くなったように感じる。

「ちょっ…」

鬼男はくすぐったいのか照れているのか身を震わせる。

「でも忘れていると苦しくなって…死にそうになる。」

「………。」

「そんなとき、鬼男はいつでも私のそばにいてくれるから。」

私は体を起こして、そっと鬼男の鼻にキスをした。

「私は貴方を手放せない。」

コツンと額をくっつけて彼の瞳を覗き込むと、そこには私が映っている。
幸せそうに笑う瞳の中の私。
私をこんな表情にしてくれるのは貴方がいてくれるから。

「ありがとう。」

「あ……」

何か言葉を呟こうとしていた唇を塞ぎ、私は静かに微笑んだ。

「大好きよ。」

チュッと音を立ててもう一度唇を重ねると、鬼男は首まで真っ赤に染める。

「僕は…なまえさんにかないません、ね。」

鬼男はそういうと私の腕を引いて再び抱きしめてくれた。
私はまた彼の心音を間近に聞く。
その音が心地よくて私は目を閉じた。

「これからもなまえさん、貴女の当たり前でいさせてください。」

そういうと鬼男は私の髪をそっと撫でた。
くすぐったくて胸がフワフワする。
幸せを噛み締めて静かに首を縦に振れば、同じように幸せそうに微笑む気配を感じた。

















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当たり前/鬼男
fin
2011.12.31

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