寒い夜 旅は嫌いじゃないが、隙間風の入りやすい旅館に冬場泊まるのは好きではない。 曽良はそんなことを考えながら布団の中で小さくなって冷たくなった素足を摩り合わせた。 耳を澄ませば師匠の寝息と妹弟子のなまえの寝息が聞こえてくる。 不愉快な程耳に残るわけではないが、眠れない夜には欝陶しいことこの上ない。 曽良はため息をついて寝返りをうつと目を固く閉じた。 すると誰かの布団の擦れる音がして、その後、己の布団の中に冷たい空気と何やら温かい塊が入り込んできて背中にしがみつく。 「…なまえ?」 芭蕉を起こさないように小さな声で囁くと、小さな塊はピクリと反応した。 「人の布団に勝手に入り込まないでください。」 「だって寒い…。」 なまえはそういうと冷たい足を曽良の足に重ねる。 「……っ!」 冷たいと思っていた曽良の足よりも更に冷たいなまえの足に曽良は思わず足を引っ込めた。 「はぁ〜曽良兄さん暖かい。」 「さっさと出てってください。」 曽良はそういうとなまえにかかっている分の布団を引っ張り、改めて目を閉じる。 「ちょっ!?さっぶい!風邪引いちゃうよ!」 なまえは慌てて曽良の布団を引っ張り再び布団に入り込み曽良の背中にしがみつく。 「…僕が風邪をひいてしまいます。」 「大丈夫…曽良兄さんは風邪ひかない、か…ら…」 もぞもぞと動いていた背中に感じる高い体温はそう呟きながら動かなくなった。 「はあ…。」 曽良は再びため息をつくと目を閉じる。 先ほどよりも若干暖かくなったように感じる布団が曽良を簡単に眠りへと導いたのだった。 「くしゅん」 明け方、太陽の光が射す前に目が覚める。 それもそのはず曽良にかかっていた布団は全てなまえが包まっていた。 曽良はゆっくりと立ち上がると布団の中でぬくぬくと眠るなまえに蹴りを喰らわせるのだった。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 繭月さんリクエスト 2011.12.12 fin 寒い夜/曽良 |