デジャウ゛ 「きゃああああっ!?」 突然現れた霊的なものを目の前に悲鳴をあげる。 するとそれとほぼ同時に私の隣にいたはずの男が視界から消えた。 「おぼろろろっ」 「げぇっ!?ちょっ…あんた何吐いてんの!??」 よく見ると私の足元で盛大にぶちまけている。 お気に入りだった靴に若干飛び散っているような、いないような…とにかく二つの意味で最悪の自体だ。 「倒れてないで早くアレどうにかしてよぉ!!」 涙目で訴えてもそいつは「無理だ」の一点張り。 ああ、もうダメだ………… 急に思い出した過去の出来事。 それは私と阿部さんの最悪の出会い、だったはず。 最悪の出会いだったのに、何故か私はこの腰抜け男をほっておけなくてあれからここでバイトをしている。 あのあとの出来事はもう思い出せない。 きっとニャンコさんとかその他式神の活躍で何とかなった…のかな? 「阿部さーん。」 「何だ?おやつが出来たのか?」 「私があんたのためにおやつなんて用意しなくちゃいけないんですか。」 「なまえは相変わらず手厳しいな。」 厳つい顔して発言が一々こどもだからついツッコミが厳しくなってしまうが、厭味というわけではない。 「書類庫の片付け、明るいうちに終わらせません?」 開かずの間となりつつある扉をチロリと見て、阿部さんに視線を送る。 しかし、阿部さんは聞こえないふりを決め込んで窓から外を眺めていた。 「あんたの仕事部屋でしょ!責任持って片付けてよ。」 首根っこを掴んで自分よりも一回り二回りも大きな男を引きずれば、阿部さんは両手で顔を押さえながら泣き言をいう。 「いや、あの部屋は危ない…!危ないんだ!!」 「危なくないですから。」 「出て来ても守ってくれるのか。」 「何で私が!!」 私は思わず掴んでいた手を振り放してしまった、その衝撃で阿部さんは頭部を押さえてうずくまった。 「もう知りません。私一人でやります。」 うずくまる阿部さんを無視して私は一人で書類庫へと入っていく。 「はぁああ…」 阿部さんの行動にもため息が出たが、それ以上に目の前に広がる危険地帯にため息が出る。 「足の踏み場が無いってこのことをいうのね。」 辺りに広がるのは自分の身長よりも高く重なった本や書類のタワー。 一歩でも間違えたら高く積み上げられた書類やら本が倒れてくるだろう。 幾らなんでもこんな量の本に押し潰されたら生きてこの部屋を出られるかどうか…。 「とりあえず、出来ることだけでも…」 私はそういうと目の前に散らばる紙を数枚拾うためにしゃがみ手を伸ばした。 「あ……」 勢いがあったのか、それとも風圧のせいなのか、たった数枚紙を引っ張っただけなのに目の前の書類が私に向かって倒れてくる。 しゃがんでいるせいで余計に高く見える書類がゆっくりと迫ってきている。 「…………や」 もうダメだ、そう思って目をつぶると背後から扉が開く気配がして、私は何者かの腕の中に閉じ込められた。 ―え…? その瞬間フラッシュバックする記憶。 あの最悪な出会い、あの時ももうダメだと思ったとき誰かに抱きしめられた。 恐る恐る目を開くとチカチカと輝く光の中に厳つい顔をした男が私を見ていた。 あの時と同じ光景。 「阿部…さん?」 「だから危なくないと言ったんだ。」 そういうと予想以上に力強い腕の力が私を引き寄せる。 その強い力を感じて、私は改めて己の状況を把握した。 私は今、阿部さんの胸の中におさまっている。 「なまえ…怪我はないか?」 耳元で響く阿部さんの声。 低くて心地よい声をダイレクトに感じて思わず身を固くしてしまった。 それと同時に緩む涙腺。 「…なまえ?」 「阿部さん…阿部…さん。」 私は阿部さんの胸に顔を押し付けると溢れ出る涙が枯れるまで泣き続けた。 「……。」 阿部さんは何も言わずに私の背中を撫でてくれる。 大きな掌が温かくて心地よい。 「阿部さ、ん。」 ああ、そうだ。 全て思い出した。 何で私がこんな腰抜けでビビりな男と一緒にいるのか。 「怖い思いをさせてすまなかったななまえ。」 「大丈夫、です。」 私はあの日あの時彼の意外にも男前な姿に一目惚れしてしまっていたんだ。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ ぽこさんリクエスト デジャウ゛/阿部 fin 2011.12.12 |