悪夢から覚めたら

目が覚めた瞬間、どっと汗が噴き出した。
夢見が悪かったのかもしれない。
胃がキリキリと痛み、頭が割れてしまいそうだ。

―体調が悪いと思ったらすぐに医務室へいらしてくださいね、いつでもお待ちしてますから。

ふと思い出した暖かい台詞。
優しくて蕩けるような甘い笑顔の女性。
調子丸は無意識に重たい体を引きずって医務室へ向かっていた。

「こんばんは…」

静かに扉を開くとそこは真っ暗な空間。
深夜だということもあり、些細な音にも空気が震えた。

「あの…なまえさん」

弱々しく名前を呼ぶと、奥から見える光。
光と共に人がやってきた。

「こんな時間に…誰ですか?」

寝起きなのだろう機嫌が悪そうな声が聞こえる。
しかし、その声は調子丸の知った声ではない。
徐々に見えてくる人影はなまえとは違う人物であった。

「貴女は…?」

調子丸が恐る恐る口を開くと、目の前の女性は不機嫌そうな表情をして見せる。

「は?私は医務室で働いているものですが。」

ぶっきらぼうで刺のあるその声に調子丸は怯えた。

「で、何の用?調子が悪いの?」

手にしていた明かりを乱暴に机に置くと、その女は椅子に腰掛けた。
いつもならなまえがいるはずの机に置かれた頼りない光が揺れる。
調子丸は一連の動作を見ながら、なまえの姿と比べていた。

「違う…!」

そして調子丸はそう呟くと、部屋を出て走り出した。
突然走り出したので肺が焼けるように熱くなり、胃が逆さまになったように吐き気がする。
しかし、今は調子丸にとってそれどころではなかった。

「太子…!聖徳太子!」

調子丸がやってきたのは国の権力者である聖徳太子の部屋。
深夜なので明かりはない、恐らく眠っているのだろう。

「太子、いらっしゃいませんか…!?」

戸を力いっぱい叩き続けるとその影響で腕が痛んだ。
体の弱い調子丸のことだ、もしかしたら筋がやられたかもしれない。
それでも調子丸は戸を叩き続けた。

「んん?…何だ?」

ようやく太子が顔を出した。
眠たそうに目を擦りながら、戸を開くと調子丸を見て首を捻る。

「こんな時間に…どうした調子丸。」

「なまえさんは…医務のなまえさんは…」

姿を見せた太子に縋るように腕を引いて調子丸は何度もなまえの名を繰り返した。

「なまえ?誰だ、それは。」

しかし、太子は調子丸の肩を叩いて笑うだけ。

「なまえさんですよ、太子!」

「ははーん、調子丸寝ぼけているな。この朝廷になまえという名のものはいないぞ。」

「そんなはず…」

「とにかくもう遅い。私は眠いから寝るぞ。」

取り付くしまもなく、太子は戸を閉じてしまった。
その場に座り込む調子丸。

「なまえさん…なまえさん…」

内側から鈍器で殴れているように痛む頭を抱え彼女の名を繰り返す。
その痛みが最高潮に達した瞬間、調子丸は意識を手放した。

「……………さ、ん。」

「…………なまえ……さん!」

自分の声で意識が浮上した調子丸は慌てて体を起こした。
汗が噴き出し、心臓が痛い。
夢見が悪かったのかもしれない。
胃がキリキリと痛み、頭が割れてしまいそうだ。

―体調が悪いと思ったらすぐに医務室へいらしてくださいね、いつでもお待ちしてますから。

ふと思い出した暖かい台詞。
優しくて蕩けるような甘い笑顔の女性。
調子丸は無意識に重たい体を引きずって医務室へ向かっていた。

「…。」

しかし、調子丸は医務室を前にして立ち止まる。
そして、頭の中に昨夜の出来事が思い出され戸を叩くのを躊躇してしまった。
すると、閉まっていた扉が開き中から小野妹子が出てきた。

「おや、調子丸さん、おはようございます。」

「あ…おはようございます。」

妹子は扉の中にいるであろう人物に「ありがとうございました。」と一礼すると調子丸に視線を戻す。

「医務室にご用なんでしょ?」

「え…ええ。」

「お大事に。」

そういって妹子は扉を開けたまま去っていった。
調子丸は妹子が開けっ放しにしていった扉の中へ恐る恐る足を運ぶ。
緊張で吐き気と腹痛が襲ってきたせいで体を支えきれずバランスを崩した。
すると温かい温もりが調子丸を包み込み優しい声が聞こえた。

「調子丸さん、大丈夫ですか?」

顔をあげるとそこにいたのは紛れも無くなまえで、調子丸は体を震わせる。

「やだ、大変熱があるじゃないですか!何でもっと早くいらしてくれなかったの?」

なまえは調子丸の肩を支えるとゆっくり布団のある場所まで連れていく。
そして、彼を横にしようと一旦体を離した。
しかし、その瞬間調子丸はなまえの体を引き寄せて強く抱きしめていた。

「調子丸…さん?」

驚いているのか先程までテキパキと動いていたなまえの体が調子丸の腕の中で固まっている。

「なまえさん…なまえさん。」

怯えるこどものように調子丸はなまえの名前を繰り返した。
それに応えるようになまえは調子丸の背中に腕をまわす。

「…はい。」

己の腕の中で小さく返事をするなまえに改めて彼女が確かにここにいることを実感した。
安心してゆっくり解放すると、そこにはほんのりと頬を赤く染めたなまえがいて先程とは異なる緊張感が調子丸を襲う。

「あ、その…突然すみません!」

慌てて頭を下げるとなまえはその行為を引き止めた。

「頭をあげてください。私…あの、嬉しかったので。」

そう言ってふわりと微笑むなまえを見て調子丸は再び彼女を抱きしめた。






















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かすみさんリクエスト
悪夢から覚めたら/調子丸
fin
2011.09.24

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