交わる時 私はただこの時代に疑問を抱いていた。 人間が楽をしながら生活をして、その生活を維持するために生き地獄を味わう生活。 薄汚れた空気も、狭い空も、醜い川も、この22世紀という時代全てに。 だからありとあらゆる手段を使って「過去」にいくことにきめた。 方法なんてきっと何処にでも落ちているから。 私はただ未来に興味があった。 己が納めるこの倭の国は未来永劫美しい景色のまま人々の暮らしを支えているのか。 他国に侵されず己の力で成り立つ国家なのか。 しかし、未来はまだ来ない。 これから少しずつ紡ぐ世界それが未来。 …のはずだった。 思った以上にしつこい時空警察。 私に発信機を付けているのかと思うくらいを追い回す。 すぐ目の前に私が望む過去に手が届くのに…。 ああ、誰か私をそこに引き寄せて。 今日はよく晴れた日だ。 雲一つない、こんな日には外に出ていないと勿体ない。 太子はそんな風に思って散歩に出た。 夏の日差しが肌に刺さる、そんな中だったがただ黙々と歩く。 宛なんて無かったが“そこ”へ向かわないといけないような気がしたからだった。 途中フィッシュ竹中に出会い他愛のない話をしたり、妹子を見つけたので小突き回したりした。 そしたら役人達が朝廷へ戻れと追いかけまわすので太子は大慌てで逃げ出す。 もし、この日あのまま役人に捕まって朝廷に戻っていたら、彼女はどうなっていたのだろうか? 太子はぼんやりとあの日のことを思い返す。 しかし、あの日太子は役人には捕まらず逃げ出すことに成功し、まだ開拓されていない広い空き地へと行くことになった。 「あいつら…すぐに仕事仕事って…」 溢れ出す汗を拭い地面に座り込む。 そのとき鼓膜がピンと張るような痛みを感じた。 それと同時に鳴り響く耳鳴り。 慌てて耳を塞いで乗り過ごそうと試みるがおさまるどころか酷くなる一方で太子は救いを求めるように宙に手をのばした。 ―ああ、もうだめだ。 私は時空警察に捕まることを覚悟する。 私が生きていた時代より更に未来に生きる奴らから逃げ出せるはずがない。 ここまで来られたのは奇跡だから、少しでも22世紀から離れられただけでも幸せだったと言い聞かせよう。 そう思い逃げる足をとめようとしたとき目の前に見えた救いの手。 誰の手なのかわからないし、私のための手ではないのかもしれない。 でも、今の私には唯一過去に行くための方法だった。 「届いて…っ!」 腕をのばしてその手を握る。 あたたかい人の温もり……。 気を失っていた太子はゆっくりと体を起こした。 ふと右手に違和感を覚え視線をおくると、そこには一人の少女がいる。 見たことのない服、見たことのない装飾品。 なにより彼女の持つ独特な雰囲気がこの時代にそぐわないような気がした。 太子はゆっくりと彼女の肩を揺らす。 誰かに呼ばれたような気がして静かに瞳を開いた。 目の前には変な恰好をした男がいる。 「貴方は…?」 重い体をどうにか持ち上げるように体を起こすと目の前に広がる世界。 私の知らない綺麗な空気と広い空。 ここは確かに過去だ。 「私は聖徳太子だ、お前は?」 更に目の前の男の名前を聞いて確信する。 「………私は」 過去を望む女と未来を知りたい男の出会い。 それは運命と時空のイタズラ。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 交わる時/太子(SF) fin 2011.08.03 |