表情の秘密

水を蹴る度にぴちゃりぴちゃりと音を立ててはねる。
太陽の光を受けた水はキラキラと輝きながらなまえの足を濡らしていく。
フィッシュ竹中はその姿を眺めていた。

「竹中さんて・・・案外暇な人なのね。」

「・・・!」

「ね、こっちに来て。少しお話しましょ。」

一瞬目を大きく見開いた竹中だったがすぐにいつもと同じ表情になり、なまえの近くまでやってきた。
竹中が近くに来てもなまえは自分の足元を見つめたまま何も言わない。

「いつから気づいていたんだ?」

沈黙が苦しいのか竹中は口を開いた。

「最初から。」

「・・・そうか。」

ますます気まずい竹中はなまえと同じように俯いた。
水がキラキラと反射して眩しい、と竹中は感じた。
しかし、それ以上に水に塗れたなまえの足が眩しくて目のやり場に困った竹中は慌てて上を向く。

「何だか…竹中さん想像と違う。」

突然竹中を見上げなまえは言う。
いきなりのことに竹中は戸惑いの表情を見せた。

「どういうことだ?」

「そう、それ!その反応が私の想像と違うの。」

少し不機嫌そうに口を尖らせたなまえ。
対照的に訳がわからくて首を捻る竹中。

「竹中さんて、もっと無表情な人なんだと思ってた。」

「そう…か?」

「だって妹子に風呂に入っているのを覗かれたときも動じなかったんでしょ?」

「いや…それは」

「他にも太子が言ってたわ!」

徐々に熱くなっていくなまえに竹中はますます焦っていく。
竹中はなまえを宥めようと思い彼女の両肩を叩きなまえを見つめた。

「なまえ!」

「ほら…今も少し頬が赤くなってる。」

「………!」

「太子に言うと“意外だ”って言うのよ。」

竹中は罰が悪そうに視線を泳がすとなまえから少し離れたところに腰掛ける。

「ねぇ、どっちが本当の竹中さんなの?」

なまえは竹中を追って隣にしゃがみ込むと竹中を真っすぐに見つめ質問を続けた。

「私の知っている竹中さんはみんなの知らない竹中さんなの?」

射ぬかれてしまうのではないかと思うくらい迷いのない視線から逃れることはできず、竹中は小さくため息をついて言葉を紡いだ。

「……難しい質問だな。」

「なんで?」

「私も意識したことがなかった。」

「?」

理解できないというような表情を見せるなまえを気にせず竹中は話を進める。

「ただ、なまえの前だと他の人間といるときより冷静でいられないのは確かだ。」

「それは…私が嫌だから?」

不安そうに眉を下げるなまえに竹中は首を横に振る。

「なまえに対して嫌悪感を抱いたことはない。むしろ…」

そこまで口にして竹中は慌てて口を押さえた。

「むしろ…何?」

「ん、いや……その。」

竹中はゴホンと咳ばらいをすると立ち上がる。

「竹中さん?」

なまえは立ち上がった竹中に視線を送る。
竹中は空を眺めながら呟いた。

「どうやら私はなまえに惹かれているのかもしれないな。」

「へっ!?」

突然の告白に驚きを隠せないなまえはすっとんきょんな声をあげる。

「さて、そろそろ私は行かなくてはならないな。なまえまた会おう。」

竹中はそういうと池の中に飛び込んだ。
竹中の姿が水底深く消えるまで気泡が上がり続け、なまえはただそれを眺めることしか出来なかった。

















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uriさんリクエスト
表情の秘密/フィッシュ竹中
2011.07.28
fin

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