目と目で通じ合う 彼の目を見ただけで彼の心の中がわかればいいのに。 そして、私の気持ちが彼に伝わればいい。 私はそう考えながら目の前にいる男を見つめた。 私の視線を受けてコロンブスは子どもみたいに無邪気で屈託のない瞳が私を見つめ返した。 「なに?なまえ…そう睨まないでよ。」 驚いたような楽しそうなそんな表情。 だけど、わかるのはそれくらい。 私が知りたいのは彼の本心。 「私はコロちゃんのこと睨んでないもん。」 口を尖らせてそっぽを向くと、コロンブスはワタワタと慌てながら私の顔を覗き込む。 「そっかぁ?」 私の彼氏は探検家であり航海者だ。 今まで何度も何度も大海原に出ている。 本当か知らないけど以前新しい陸地を見つけて、コロンブスが名前を付けたとか自慢げに話していた。 「コロちゃんは私のことわかってないよ。」 彼が船に乗るたび私は不安になる。 もしかしたら一生彼は私の元に帰ってこないかもしれない。 それなのに、いつも直前まで船に乗ることを教えてくれない。 前日とかそんな日に笑いながら、まるで隣町に行くみたいに「明日からまた船だから!」って笑う。 それだけ彼が船に乗って新しいことを発見するのが好きってことも、子ども並に好奇心旺盛な人だということも知っている。 私はそんなコロンブスが好きなんだけど。 「そっかなぁ?」 「…そうだよ、全然わかってない。」 でも、やっぱり彼が私の前からいなくなるという事実は辛くて哀しい事実。 「うん、ごめん。」 コロンブスの口から飛び出してきた謝罪の言葉。 謝るなんてめずらしい。 私は驚いてしょんぼりと肩を落とすコロンブスを見つめた。 彼の悲しそうな瞳が揺れる。 「な、に…謝ってんの。もしかしてまた悪いこととか考えてるんじゃない?」 私の言葉に首を横に振るコロンブスに、私は言葉を続けた。 「じゃ、また私を置いて船でどっか行くんだ。」 一瞬コロンブスの目が大きく見開いたが、すぐに首を横に振る。 「…嘘つき。」 「本当に違うよ。」 「嘘だよ、だって今…嘘つきの目だったもん。」 ああ、彼がまた私を残して何処かに行ってしまうと思うと泣いてしまいそう。 「まぁ、確かにちょっと嘘もついたけど。」 「ほ、ほら!」 私は思わず声をあげる。 もうヒステリーに近いかもしれない。 でもコロンブスは珍しく落ち着いて優しい表情をしていた。 慣れない表情に胸が跳ねる。 「また私を置いて船に乗るんでしょ…!」 「確かに来週から船に乗るけど、今度はなまえも連れていけるよ。」 一瞬彼の言葉の意味が理解できなくて数回瞬きを繰り返すことしか出来なかった。 「あ…あれ?嬉しくない?」 今度は心配そうに私の顔を覗き込んだコロンブスに、私は勢いよく抱き着いた。 突然のことだったので彼はすこしバランスを崩したが、ちゃんと私を受け止めてくれた。 「本当に!?本当の本当?」 「勿論!ちゃんとコックに言ってなまえの分の肉も卵も積んであるんだ。」 「嬉しい!ありがとう!!」 彼の目を見ると、私以上に嬉しそうに笑っている。 コロンブスは言葉にださなかったけど、彼もまた喜んでいるのがわかった。 この時、初めて彼の心の中が見えたような気がした。 「俺もなまえの機嫌が直るくらい喜んでもらえて嬉しいよ。」 「…ねぇ、何でコロンブスは私が怒ってるってわかったの?」 「んー?なまえが俺のことコロちゃんって呼ぶときはさ、だいたい怒ってるってのが相場なんだよ。」 そういってニタリと笑うコロンブスは強く私を抱きしめた。 苦しいけど、嬉しくて幸せになれる苦しさ。 どうやら彼は私が考えてる以上に私をよく見ているみたいで、更に嬉しくなった。 「私…コロンブスのこと勘違いしてた。コロンブスは私のことちゃんと理解しようとしてくれてたんだね。」 ありがとう、の代わりに私もコロンブスを抱きしめ返す。 何となくコロンブスの鼓動が聞こえてくるような気がした。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ @さんリクエスト 目と目で通じ合う/コロンブス fin 2011.04.10 |