口が滑って

普段は狭い生徒会室もたった一人では広く感じるものだ、と思いながら鬼男は一人大きく伸びをした。
すると、背後のドアがガチャリと音を立てて開く。
みっともない姿をしたまま振り向くと、そこには二つ年上の先輩なまえが立っていた。

「おはよ、鬼男。」

なまえは鬼男と目が合うとにこりと笑う。
鬼男は慌てて立ち上がると、会釈をした。

「あ、お、おはよございます。」


「ふふっ、鬼男ってば大袈裟。私ってそんなに怖いの?」

「えっと、いえ、そういうわけじゃ…」

消え入るような声で視線を泳がせる鬼男の額をなまえが小突く。

「男ならしゃんとする!」

なまえは泳ぐ視線を捕まえて、少しきつめの声で鬼男に言い聞かせる。

「ね?」

次の瞬間ふわりと優しい笑顔にかわる彼女の表情に、鬼男の褐色の肌の色がより濃くなった。

「…はい。」

つられるように鬼男も微笑むとなまえの頬がほんのりピンク色に染まった。

「いい笑顔、いつもそうやって私の前で笑ってよ。」

「せ…先輩こそ。」

「私はいつでも笑ってるでしょ。ほら。」

にっ、と見せ付けるように笑って見せると鬼男は首を横に振る。

「僕はなまえ先輩にいつでもじゃなくて、僕の前だけで笑って欲しいんです。」


鬼男は言い終わってから慌てて己の口を塞ぐ。
お互い首まで赤く染めて視線を交わす。

「あ、のっ…!」

鬼男が口を開いた瞬間、ドアが勢いよく開き賑やかな面が並んだ。

「おはよーさん!なまえ先輩に鬼男!」

「あー、今日は担任の話が長かったな。」

太子、閻魔の順に部屋に入ってきた彼等はなまえと鬼男にいつも通り挨拶を済ませ各自荷物を放り投げる。

「あ、お、おはよ!お疲れ。」

「おはよございます。」

慌てながらお互いの距離を離し合うなまえと鬼男。
互いに視線を送るけど、どうしていいのかわからなかった。

「…?」

なまえと鬼男のぎこちない空気に一瞬首を傾げた閻魔だったが再びドアが開き生徒会担当の松尾芭蕉が入って来たせいで何も聞けなかった。

「みんな集まってるみたいだね。」

集まった面子を確認すると芭蕉はへらっと笑い職員室で押し付けられた書類を広げる。

「また雑用か!松尾!!私はもっと別の事がしたいのに。」

「そうそう、なあ、鬼男。」

太子と閻魔は広げられた書類をめんどくさそうに目を通しながら次々と愚痴をはく。
鬼男は困ったように頷きながらなまえに視線を送る。
なまえは鬼男の視線から逃げるように、さっきから泣きべそをかきそうなっている芭蕉の助け舟を出した。

「我が儘言わないの、みんなで分担すればすぐ終わるんだから。」

「はいはい。」

「なまえ先輩は真面目だね。」

だらし無い返事と共に各自手にしていた書類を持って席につく。
唯一何も手にしていなかった鬼男になまえは自分が手にしていた物を渡す。

「はい。これ、鬼男の…。」

「あ、ありがとうございます!」

ぎこちないなまえと鬼男を無視して、今日もいつものように楽しい放課後が始まった。

















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2011.03.22
fin
鬼男/口が滑って

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