Happy Valentine 「バレンタインがずっと休日だったらいいのに。」 机の上に置いてあるチョコレートを見たなまえがため息と共に吐き出した言葉が部屋に響き渡る。 芭蕉はその言葉の意味を理解できず、首を傾げた。 「だって、そうでしょ、バレンタインが平日だと私は芭蕉さんにいの一番にチョコを渡せないじゃないですか。」 今日は平日、世間ではバレンタインだのチョコレートだの騒がれていたが、芭蕉は学校の教師で働いていて、なまえは大学生として講義を受けていた。 ようやく二人が会えたのは芭蕉の仕事が終わる時刻だった。 なまえは手にしていた紙袋から可愛らしい箱を取り出し、机の上のチョコレートの中に放り投げる。 「ああっ!!」 芭蕉はなまえの行動に思わず悲鳴をあげた。 直接渡してもらえると思っていた恋人からのプレゼントは、乱暴に放り投げられてしまった。 「しかも、知らない誰かから沢山渡されてるなんて…何だか嫌だ。」 なまえは頬を膨らませてソファの上に横になった。 恋人が完全拗ねてしまったということを、芭蕉は悟る。 「いや、これは生徒からの…義理チョコだよ。」 「でも、やだ。」 「なまえちゃん…。」 「だって、この中にもしかしたら本命が有るかもしれないんだよ。」 可愛い恋人は自分が一番にチョコを渡せなかった悔しさよりも、もしかしたらこの贈り主の中にライバルがいるかもしれないという不安にヤキモキしているようだ。 彼女らしいヤキモチに芭蕉は思わず笑ってしまった。 「な、何で笑うの!?」 心外だと言いように目を吊り上げるなまえを宥めるように、優しく頭を撫で、芭蕉はなまえの横になっているソファの端座る。 「でも、私が欲しいのは、なまえちゃんからの気持ちだけだよ。」 「………!」 「例えあの中に本命があったとしても、私にはなまえちゃんがいるから、その子の気持ちは受け取らない。」 「…ホント?」 ゆっくりと体を起こし、疑うような瞳をしたなまえを慰めるように微笑みながら首を縦に振る。 すると、なまえの頬が赤く染まり嬉しそうにはにかんだ。 それを見た芭蕉も心からうれしくなってしまう。 「さ、一緒にチョコを食べよう。なまえちゃんチョコ好きでしょ。」 「私も食べていいの?」 「うん、そのつもりで貰ってきたものもあるからね。」 お茶を用意してくれるかな、と芭蕉が首を傾げるとなまえは返事をする前にソファから飛び降りた。 「ねぇ、今日は紅茶でいいかな?」 現金だが正直で真っすぐ愛してくれるなまえに笑顔が零れる。 「なまえちゃんに任せるよ。」 うん、と笑うなまえを見て来年もきっとこんな風にヤキモキしているだろう彼女の姿を思い浮かべながら芭蕉も立ち上がった。 〜Happy Valentine!〜 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ Happy Valentine/芭蕉 fin 2011.02.25 |