寒さと起床時刻 ひんやりと冷たい空気が部屋を包み込んでいる。 目覚ましによって覚醒をしたなまえは眠い目を擦って上半身を起こした。 隣ではまだ曽良が眠っているので、起こさないように物音を立てないよう気をつけながら部屋を出る。 ドアを閉じる前に愛しい人の寝顔を眺め、無防備な表情に心くすぐられながら朝食の準備を始めた。 数ヶ月前までこの時間は朝日である程度明るかったが、まだ朝日は昇っていない。 それだけで「冬」を感じてしまい、よりいっそう寒さがなまえを包み込んだ。 食事の支度が終わる頃には、日も昇り、朝の雰囲気が居間を包み込んでいた。 炊き上がったばかりのご飯の香りがよりいっそう「朝」であることを強調している。 そろそろ曽良も起きてくるだろうと考え、テーブルに出来上がったばかりの朝食を運びながら、愛しい人の起床を待つ。 しかし、いつまで経っても起きてくる気配はない。なまえのものとは別に曽良の目覚ましもきちんと作動しているはずなのにどうしたものかとなまえは首を傾げた。 このままでは曽良も自分も仕事に遅刻してしまう。 なまえは意を決して寝室へと向かった。 静かにドアを開くと、カーテンによって薄暗い世界が広がっている。 先程まで自分も眠っていたベットには、未だ人の眠っている痕跡がある。 布団の隙間から黒い髪が見て取れ、曽良がまだ夢の中であることがわかった。 「曽良くん…?」 余りにもしずかな空間だったのでなまえの声まで控え目になってしまった。 その声に反応したのかもぞもぞと布団が動き、髪が出ていたところから曽良が静かに顔を出した。 「曽良くん、朝ですよ。」 なまえはベットの淵に腰掛けて、曽良の表情を見つめた。 まだ覚醒してないのか、その目を開くことはない。 「曽良…。」 肩に手をかけて優しく振動を与えてやると、ようやくその瞳を開いた。 しかし、常の鋭く冷たいような眼ではなく、どこか幼さを残した…つまり寝ぼけた瞳で曽良はなまえを見つめる。 「もう、朝ですよ。」 普段とは違う曽良に、思わず頬を緩めなまえは語りかける。 「さ、起きてください。」 目にかかりそうな髪を避けながら、そう言うと曽良は二度瞬きをした。 そして、小さく口を開く。 「寒いので、嫌です。」 小さな口から漏れてきたのは否定の一言。 なまえが驚いて、言葉を失っていると、曽良はもぞもぞと布団に潜り込んでしまった。 「え、曽良くん、何を言っているんですか、もう朝なんですよ。」 今度は勢いよく布団をめくりあげて、曽良の体を露にした。 その寒さに曽良の体は布団の中で小さく縮こまっている。 「…寒いじゃないですか。」 不機嫌そうに眉間にシワをよせる曽良に、なまえはため息をつく。 「冬ですから、当然です。」 曽良の手を引いて体を布団から無理矢理引きはがすと、諦めたのかベットから足を下ろした。 「リビングは暖かくしてありますから、ご飯食べましょう?」 眠たそうに目を擦る曽良にそう伝えて歩きだすと、その歩幅に合わせ曽良も歩きだした。 時計はいつもより進み、少し遅い朝食となったが、曽良の意外な一面になまえは頬を綻ばせるのだった。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 寒さと起床時刻/曽良 fin 2011.01.25 |