Sugar&apple

ボウルで掻き交ぜていた卵の白身が、真っ白いメレンゲにかわっていく。
真っ白い泡が角を立て、これならふんわりと柔らかいスポンジが出来るだろう。
太子は私の隣で洗い物をしてくれている。
ケーキを盛りつけるための大きなお皿。
これを慣れない手つきで洗う姿は、まるで子どものようだ。
洗剤があちらこちらに飛んで、太子の腕は泡だらけ。
まるで私が掻き交ぜたメレンゲがボウルを飛び出して彼の腕を汚しているような錯覚に陥ってしまう。

「なまえ、どうだ?ショートケーキは出来そうか?」

泡が付いたままの腕で顔を擦るもんだから、頬にまで泡がついた。
甘い、まるで砂糖みたいな感情が私の胸を覆いつくす。

「うん、太子が手伝ってくれたおかげね。きっとふんわりしたケーキが出来る。」

私がそう言って笑顔を見せたら、太子の頬がほんのりと赤く染まる。
頬についている白い泡の白さが際立った。
胸を覆う甘い感情に太子の頬と同じ色をした酸味の効いた林檎を入れたらどうなるかしら。
きっと太子のことがもっと好きになれるはずだ。

「ありがと、太子。」

「これくらい私に任せんしゃい。」

得意げに鼻をならしながら、皿についた泡を流水で丁寧に落としていく。
太子の腕についていた泡も排水溝に流れていった。

「ねぇ、ケーキには何を乗せる?イチゴ、ブルーベリー、ラズベリー…いろいろあるよ。」

メレンゲを生地のもととあわせながら、太子に盛り付けの話をしていると、太子の携帯から着信音が鳴り響く。
この音は仕事先からの着信音。

「すまんな、ちょっと…」

太子はそう言うと電話に出てしまった。
きっとあの電話は仕事熱心なあの赤いジャージを着た男からだろう。
彼は悪くないのに、私の中であの人は私から太子を奪う「嫌な人」として認識されてしまっている。
本当は仕事が私から太子を奪っているのに。

「…うん。」

ふと、甘い感情に熱い炎のようなものがかかってるような錯覚に陥った。
最初は胸を覆う砂糖を溶かして甘い香りを放つくせに、徐々にその火力を調節できなくなり焦がしてしまう。
幾つになっても、何度この炎を扱っても上手く使いこなすことが出来ない。
この感情をなんと呼ぶのか私には理解できず、ただ甘い感情が黒く焦げていく様を眺めているだけ。

「なまえ。」

太子の声が私を連れ戻す。
目の前には愛しい人が心配そうな表情をしながら立っていた。

「あ、うん…これから、お仕事だよね。ケーキ作って待ってるから。」

私は出来るだけ笑顔で答えながらスポンジの生地を型に流し込む。
ほのかに甘い香りがキッチンに広がった。

「いや、今日は行かなくても大丈夫そうだ。」

黒く焦げていくように見えていた甘い砂糖がトロトロと溶けていく。
砂糖に紛れて赤い林檎が顔を出した。
林檎は熱により水分を出し、美しい白さを失っていたが、砂糖と絡まり独特の天井香りを放った。

「で、盛り付けの果物には何があったっけ?えーっと、トマト?」

太子はそういうと野菜室を漁る。
私は太子の隣に立ち、野菜室に眠る赤い林檎を取り出した。

「ううん、ジャム…林檎ジャムを作ろう。」

「林檎ジャム?そんなものが作れるのか!?」

パッと花が咲くように笑う太子。
私もその笑顔につられて笑う。

「うん。だから一緒に作ろう。」

手にしていた林檎を太子の掌に乗せて、私は鍋を取り出した。
スポンジを作ったときに砂糖を使い切っちゃったから、一緒に新しく砂糖も出して…ああ、今日は砂糖だらけ。

「楽しみだな。」

掌に置かれた赤い林檎と私を見ながら、太子は呟く。

「きっと最高に美味しいわ。」

その視線に応えるように微笑んでみせると、太子の頬が再び赤く染まる。
胸の纏う焦げてしまいそうな炎は消えて、再び甘い気持ちが蘇った。
甘酸っぱい香りが胸の中に広がって、幸せな気持ち。
きっと、これから太子と作るジャムもこんな香りがするような気がする。

















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Sugar&apple/太子
fin
2010.12.31

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