傷心クリスマス

会社の窓から見える風景が色鮮やかに、そして華やかなイルミネーションに変わってもうどれくらい経つのだろうか。
今は太陽の光があるためその姿を見ることは叶わないが、日が沈んだ後の景色はそこらの観光スポットなんかよりずっと美しい。
太子は部下が注いでくれた熱い日本茶を啜りながらその風景を眺めた。

「なーに時間を無駄遣いしてるんですか!ほら次の書類目を通してください。」

キーンと耳に残る高い声が響き、振り向くとまだ幼さの残る顔付きの部下が立っていた。

「早く終わらせないと今日も残業になりますよ、太子さん。」

「ん?なまえ…お前、今日は彼氏とデートじゃなかったのか?」

1ヶ月以上前にどうしてもクリスマスイブは彼氏と過ごしたいからと有休を取っていたはずのなまえがいて、太子は首を傾げる。

「はっ、クリスマス?何ですかそれ。」

刺刺しい空気を醸しだし、なまえは太子を睨み付ける。
その表情はまるで鬼か般若のようだ。

「え、あ…別れたのか。」

太子の一言にオフィス内が凍り付く。
誰もその事には触れずにいたというのに、空気を読めない上司に部下達は小さくため息をついた。

「違います、別れてやったんです!あんな馬鹿男。」

「な、なるほど。」

太子はなまえに噛み付かれない程度に慰めてやったが、効果は無くますます熱くなるなまえ。
空気の悪いオフィスから逃げ出そうと、部下は少し早い昼休みを取り始めた。

「待ちんしゃい、逃げる気か!?」

「逃げる!?私は逃げてません!」

こそこそと昼休みと言う名の逃げをしている部下に言ったつもりだったが、今のなまえには伝わらない。
それどころか、食ってかかるように太子に近づいてきた。
なまえの気迫に、珍しく押され気味の太子は「まあまあ」と彼女を宥めるが、やはり効果は無い。

「とりあえず、なまえ…落ち着きんしゃい。お茶飲むか?」

「結構です。」

眉間にシワを寄せ目を吊り上げるなまえに太子は困ったように笑う。

「何が可笑しいんですか!?」

「そんな鬼みたいな顔してると美人が台なしだぞ。ん?」

突然の口説き文句になまえの思考は一時止まる。

「もっと笑え、なまえ。お前さんには笑顔が似合う。」

先程までの勢いを失い、些か冷静になったなまえは、太子の言葉を受け少しずつ体中が熱くなっていく。
気が付いたときには首まで赤く染まっていた。

「な、にを言ってるんですか。」

赤く染まった顔を見られたくないのか、少し顔を俯けたなまえ。
それでも視線を反らす事が出来ない。

「信じてないな、おま。ホントのホントに笑った方が可愛い。」

そういうと太子はへらりと笑う。
その笑顔を見てなまえは一瞬時間が止まったかと錯覚してしまった。

「は…もう、知りません。それより早く書類に印を押してくださいね。」

止まった時を動かそうと太子から目を反らし、仕事という現実を見つめる。
しかし、太子はとどめと言わんばかりに口を開いた。

「なぁ、なまえ。今日は二人で残業しないか?」

「!」

普段なら笑いながら断る台詞だったが、今のなまえには断る理由が見つからない。
それどころか「有りかもしれない」、なんて思っている自分がいる。

「ここから見えるイルミネーションが綺麗なんだ、なまえに見せてやる。」

「…か、考えておきます。」

「じゃ、また後で聞くからな。」

「はい。」

もしかしたら、午後仕事をしているうちにこの体を包み込む熱は下がってくれるかもしれない。
なまえは弱々しく首を縦に振るのだった。



















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傷心クリスマス/太子
fin
2010.12.24

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