冬の日常

水仕事をするには辛い季節がやってきた。
洗濯に食器洗いなど普段なら難無くできる家事を行うには水が冷た過ぎる。
指先から伝わる冷たさが前進をまわり、なまえの頭から爪先まで寒さで包んでしまう。
なまえは朝食の片付けを終え、次に洗濯物を太陽が高いうちに干してしまうために庭へ出た。

「芭蕉さん!何をしているんですか!?」

洗濯物が大量に入った籠にを片手に庭へ出ると、そこには芭蕉が上半身裸で立っている。
太陽が出ているとはいえ、肌を直接出すには厳しい寒さだ。
何より見ている側が寒くなってしまう。

「ん?これから乾布摩擦でもしようかと思って!」

寒さを感じないのか、芭蕉はいつもの笑顔で答えると、手にしていた布で己の腕を擦り始めた。

「はあ、なるほど乾布摩擦ですか…って何言ってるんですか!風邪をひきますよ。」

大慌てで芭蕉に服を着せようと手にしていた籠を置き、芭蕉のもとに駆け寄り服を引っ張る。
しかし、芭蕉は気にもせず乾布摩擦を続けた。

「ほら、鳥肌立ってる!芭蕉さんも寒いんでしょ?」

「でも、乾布摩擦は健康にもいいんだよ。」

「知りませんよ。とにかく風邪をひく前に服を着てください。」

えー、と文句をたれる芭蕉を無視してなまえは無理矢理服を着せてやった。
よく見ると布で擦っていた部分が赤く腫れている。

「ちょ…どんだけ強く擦ってるんですか!」

痛々しい芭蕉の腕になまえが優しく触れるとそこはほのかに熱を持っていて、冷たいなまえの指を温めた。

「わっ…なまえちゃん、冷たいよ。」

「あ、ごめんなさい。」

その温かさにいつまでも触れていたかったが、芭蕉の悲鳴に素早く手を引っ込める。
しかし、名残惜しさからか無意識に芭蕉の袖を掴んでいる自分がいて、なまえは恥ずかしくなった。

「これから洗濯?」

「あ、いえ、あとは乾すだけです。」

縁側に置きっぱなしにされている洗濯籠を見つけ、芭蕉は己の裾を掴んでいる手を優しく包み込む。

「じゃあ、私も手伝うよ。」

なまえは嬉しそうに頬を緩めたが、芭蕉の薄着を見て素早く首を振った。

「先に上着を羽織ってきてください。」

「わかった、わかった。」

なまえに腰を叩かれて芭蕉は困ったように笑い、小走りで部屋に入っていく。
芭蕉の後ろ姿を見送りながら置き去りにした籠を拾い、なまえは再び家事に戻るのであった。






















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冬の日常/芭蕉
fin
2010.12.18

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