休日の誓い 「反省の色はない」の続き 今まで霊感があったわけじゃなかった。見えてはいけないものなんて見たことないし、聞こえないし…まして信じてなんかなかった。 それなのに、私の部屋には閻魔大王と名乗る男がいる。 平日は学校の屋上に現れて私の昼食の邪魔をしてくれたりするんだけど、家に押しかけて来たのは初めてだ。 というより、男を部屋に入れることが初めてだったりする。(男と認識していいのかわからないけど) 「で、何の用なの?」 珍しく真剣な顔をしている閻魔に問い掛けると、真っすぐ視線を送られた。 熱いくらいの視線に不覚にも胸が時めいてしまう。 「オレってなまえにとって何?」 質問の意味が理解できなくて眉をひそめてしまった。 たぶん、眉間にシワがよってるだろう。 そんな私を見て閻魔は慌てて言葉を繋ぐ。 「えと、何て言うか…オレの存在ってなまえにどう見えてるのかなぁって。」 急に弱気になった閻魔は右手で頬をかきながら視線をさ迷わせている。 どうやらいつもの「冗談」ではないようだ。 「私にとって、閻魔は…」 閻魔が真剣に聞いているなら私も真剣に考えなくちゃ。私は頭の中で必死に閻魔にお似合いの言葉を探す。 「なまえにとって、オレは…?」 「閻魔は………」 「………。」 あまりに真剣に考えてしまったせいか、無言の時間が続く。 最初は大人しく答えを待っていた閻魔だったが、徐々にその表情が曇っていくのがわかる。 「オレって答えに困るような存在?」 怒られた犬のようにしょんぼりと肩を落とし露骨に悲しそうな顔をする閻魔。 私は慌てて首を振った。 「そうじゃないの!」 「………。」 私の言葉を聞いて改めて真剣な表情をする閻魔に私も真剣な瞳を向ける。 「えっと…その、何て言うか…大切?」 「大切?」 「うん、そう。大切な存在。」 「大切かぁ。」 閻魔は私の言葉を繰り返しながら、その意味を考えているようだ。 「どんな風に?」 これなら満足するだろうと思ったが、そんなことなかったらしく質問を重ねてきた。 今度は生き生きとした表情をしている。 「どんな風…って、そりゃ、あれよ、あれ。」 「あれ?」 「……ていうか、ちゃんと答えたんだからもう、十分でしょ。」 熱い視線から逃げるように顔を背け、床に落ちていた雑誌を広げた。 これ以上深く追求されたら、気付いてはいけない何かに私自身が触れてしまいそう。 「…ふーん。」 「何よ。」 雑誌から視線をあげるとニヤニヤとしまりのない表情をした閻魔がこちらを見ている。 「なまえに大切って言われるとは思わなかったからさ。」 「……?」 「本当は、オレの容姿がなまえからどう見えるかを聞きたかったんだけど…もっといい答えが聞けたよ。」 「っな!?」 予想外の一言に私は言葉を失った。 まさか、容姿について聞いてるなんて…。 「大切かぁ。オレもなまえのこと大切にするね。」 閻魔はそういうと雑誌を持っていた私の手を強くにぎりしめた。 ジワジワと体中が熱くなるような錯覚。いや、実際顔が赤くなってるのがわかる。 「…なまえどうしたの?あ、もしかして照れてる?」 「閻魔のばか!日本語勉強しろ!!」 「ちゃんと使えてるのに!」 空いてる手で閻魔の頬を叩き、もう二度と閻魔の質問なんかに答えてやるものか、と誓った休日の午後。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 休日の誓い/閻魔 fin 2010.12.11 |