ハジメテノ 「………っ。」 妹子は何度目かの寝返りをうった。今まで体に触れていなかった布団はひんやり冷たいはずなのに、体が茹蛸のように熱い。 理由はわかっている。 いや、だとしたら自分はなんて愚かなんだろうか。 「………うーあー」 無理矢理閉じた瞼の裏にはなまえの姿。 今日デートの別れ際に付き合い始めてから初めてキスをした。 もう彼女と離れて何時間たったのか。おそらく4時間以上は起っているというのにその感触や熱が消えることはない。 生まれて初めてのキスではなかったが、なまえとキスをするのは初めてで、柄にもなく緊張してしまった。 「なまえ。」 名前を呼んだって瞼の裏に映るなまえが答えるはずないのだが、耳の奥でキスをした後に恥ずかしそうにしていたときの彼女の声が聞こえたような気がする。 「〜〜〜っ!!」 その幻聴がまた妹子の体を熱くし、眠りから遠ざけた。 ―と、とりあえず。落ち着こう。 明日も仕事がある。 いつまでもこうしてはいられない妹子は熱を帯びる肺に少しずつ空気を送り込んだ。 冷たい空気がゆっくりと肺だけでなく体中を冷やしてくれているような錯覚がする。 「……ふぅ。」 何度か深呼吸をしたおかげか先ほどより幾分か落ち着いた妹子は、改めて寝返りをうった。 フワフワと心地よいまどろみが訪れ、熱かった体が嘘のように落ち着いている。 ようやく訪れた睡魔に包まれて、眠りの海に落ちようとした瞬間鳴り響く目覚まし時計。 「う、えっ!?」 跳び起きて時計を確認すると、目覚ましは確かにいつもの時間を指していて、窓からは朝日が差し込んでいる。 どうやら自分は浅い眠りの中にいたようだ。 「…最悪だ。」 疲れのとれていない体を無理矢理起こし冷たい床に足をおろした。 ふらふらと頼りない足取りで歩いていると昨日出しっぱなしにしていた荷物。 そこから覗くなまえとの思い出を見れば先ほどまで忘れようとしていた記憶が甦る。 「今日も頑張るか…。」 朝日に向けて体を大きくのばし、これから始まる一日に向けて気合いを入れた。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ ハジメテノ/妹子 fin 2010.12.05 |