暖の取り方 どんよりと重たい雲の下、二つの影が並んでいる。 「寒い…。」 「うん、本当に寒いね。」 一人は自分の腕を抱えながらブルブルと震え、もう一人はそんな連れの姿を見てクスリと笑った。 「うー、芭蕉さんは余裕ですか!?ポカポカしているんですか!」 自分の震える姿を笑われて恥ずかしいのかプリプリと怒ったなまえは意味不明なことを言う。 「えぇっ!?違うよ、私も寒いけど…。」 芭蕉は困ったように笑いながら否定の意味を表現するため手を横に振る。 「そもそも芭蕉さんのせいでこんな寒空の下にいるんですから責任とってくださいよ。」 「うっ…」 痛いところ突かれ言葉を無くした芭蕉はソワソワと視線を泳がせ、決意したのかなまえを見つめた。 「じゃあ、手を貸してごらん。」 なまえは言われたとおり芭蕉に両手を差し出した。 芭蕉はなまえの小さな手を自分の手で包み込むと、自分の顔の前に引く。 「?」 一歩だけ芭蕉のそばに寄り、隙間から芭蕉の顔を覗き込むと、少し頬を赤くした芭蕉と目があった。 そして、芭蕉は自分の手となまえの手に「ハアー」と勢いよく息をはきかける。 「…なっ!?」 生暖かい空気が二人の手を包み込み、驚くなまえをよそ目に芭蕉はなまえの手を優しく自分の手で暖めるように擦り合わせた。 「ば、芭蕉さんっ!?」 なまえは制止の意味も込めて芭蕉の名を呼んだが、芭蕉は気にする事なく再び温かい息を吹き掛ける。 顔を真っ赤にしている芭蕉が酸欠になってしまうのではないかという不安と、芭蕉の手と擦合わせるという恥ずかしさで寒さを忘れてしまうほどだ。 「もう、もう暖かいです!」 悲鳴に似た声をあげ、芭蕉の手を振り払おうとするが予想以上に力強い芭蕉の握力になまえの手は振り払うことが出来ない。 「芭蕉さんってば!」 「……もういいの?」 再び優しく手と手を擦り合わせている芭蕉に無言で何度も頷くと、芭蕉は安心したようにはにかんだ。 「本当だ。なまえちゃんの手暖かくなったね。あと、ほっぺも真っ赤。」 そう言いながら芭蕉はへらりと笑う。 なまえは緩んだ芭蕉の手から逃れて、芭蕉に背を向けた。 「もう…。」 「それにしても日が暮れてきたねぇ。」 なまえの胸のドキドキを知ってか知らずか芭蕉は気の抜けた声で言葉を紡ぐ。 その声になんとなくムカついたなまえは核心をついたことを言ってやった。 「こんなところにいても曽良兄さんの機嫌は治りませんよ。さっさと謝りに行けばいいじゃないですか。」 「えぇっ、断罪されるの目に見えてるじゃないか!」 「芭蕉さんなんて、兄さんに断罪されちゃえばいいんですー。」 おさまらない頬の熱と掌の熱。 芭蕉の悲鳴を背に受けながらなまえは、自分の手に温かい息を噴きかけるのだった。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 暖の取り方/芭蕉 fin 2010.11.20 |